(1)直鎖状脂肪酸、直鎖状アルコール及びその混合臭を用いたラット匂い条件付け 本研究の最終的目標である匂い経験(学習)に依存的な僧帽細胞の発火活動の変化を捕らえるために、初めに十字迷路による匂い識別訓練系を立ち上げた。このシステムを用いることにより3週間〜4週間の訓練によって、匂い学習が成立することが確認できた。しかしこの方法を用いると、匂い学習が成立したラットを作成する効率が非常に悪く(当初は訓練期間として1週間程度を予想。また、一度にトレーニングできる個体数が3〜4匹)、次のようなシステムに変更した。飼育環境下で給水瓶を4本用意し、飲み口に匂いの染みこんだチューブ(脂肪酸、アルコール、2種の混合臭、無臭のいずれか)を取り付け、正解(混合臭)以外の給水瓶にはキニーネ水(苦味)を入れた。5日間の訓練の結果、正解の給水瓶からのみラットは給水するようになり、十字迷路を用いる方法に比べ簡便かつ迅速に学習を成立させることができた。以降、この訓練により学習の成立したラットを電気生理実験に用いることとした。 (2)ラット嗅球背側部の僧帽細胞の同期的発火活動の記録 前述の方法によって学習の成立した個体、およびナイーブな個体を用い、ウレタン麻酔下で脂肪酸応答僧帽細胞、及びアルコール応答僧帽細胞からの同時期録を行っている。当初、訓練に用いた匂い刺激に対し応答する僧帽細胞から記録できる歩留まりが非常に悪かったため(1個体につき0〜2個)、訓練前に匂い刺激による嗅球背側部の内因性シグナル応答を記録し、訓練に用いる匂いに応答する部位を確定した後、訓練、そして電気生理的実験を行う系を確立した。現在、学習群、非学習群それぞれからの記録数を増やしており、統計的方法を用いることで、群間で僧帽細胞の同期的発火活動に違いがあるかを明らかにできると考えている。
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