エストロジエン受容体(ER)トランスジェニック(TG)ラットを用いた検討 これまでの研究により、α型ERを発現するニューロンを生きた状態で可視化されるTGラットの作製に成功した。すなわち、ラットα型ER遺伝子プロモーターのひとつであるプロモーターO/Bの下流に、GFP遺伝子を結合させた導入遺伝子を用いることで、雌型性行動に対し抑制的に働く視索前野にGFPを発現するTGラットを得た。視索前野に存在するGFP発現細胞の70%は免疫組織学的にERを発現し、このGFP発現はERと同様にエストロジェンによってdown-regulateされていることから、プロモーターO/BがERのdown-regulationに関わっていることが明らかとなった(論文投稿中)。複数存在するER遺伝子プロモーターの機能的差異についてはほとんどわかっておらず、本研究の結果によりその一端が明らかとなった。また同時にER遺伝子プロモーターの制御下で発現したGFP蛍光を指標として、これまで困難であったER発現ニューロンを生きた状態で可視化することが可能となった。これら視索前野GFP発現細胞を用いた、エストロジェン作用に関する電気生理学的な研究を現在進めている。一方で雌型性行動に対し促進中枢と考えられ、BRの局在が観察される視床下部腹内側核にはほとんどGFPは発現していなかった。このことは視索前野と腹内側核で機能しているER遺伝子プロモーターが異なることを示唆している。以上のように雌型行動神経回路を可視化する目的で作製したTGラットを用いることで、本来の目的を達しただけでなく、これまで不明であった多種類ER遺伝子プロモーターの存在意義について重要な知見が得られた。特に雌の性行動に対し拮抗的に働いている二つの神経核で、異なるプロモーターが機能しているということは興味深く、今後の研究進展が期待される。
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