研究概要 |
モノクローナル抗体lot1で染色されるlot細胞は,マウス胚発生期に終脳の予定嗅索領域に配列し,嗅球からの軸索をガイドする神経細胞である。これまでの研究から,lot細胞は,1)胎生9.5〜10.5日に終脳背側の新皮質領域で分裂した後,2)終脳表層を腹側方向へ移動して予定嗅索領域に侵入する。3)その後,前後軸方向に移動して,4)予定嗅索領域に沿うように帯状に配列することが明らかとなった。これまでに、終脳でこのような移動をする神経細胞の報告はなく,そのユニークな移動がどのように制御されているのか全く未知であった。そこで現在、lot細胞が予定嗅索領域に分布する機構について解析を進めている。 まず、より簡便なアッセイ系の確立を目指した。その結果、培養下でlot細胞の移動を再現する組織片培養系を確立することに成功した。次に,この培養系を使ってさまざまな組み合わせ培養を行った。その結果,1)予定嗅索領域の背側には腹側へ向かって勾配を持ったlot細胞の誘引作用が存在すること,2)予定嗅索領域の腹側の領域にはlot細胞の侵入を阻害する機構が存在することが明らかとなった。 現在は,これらの機構を担う分子機構を明らかにするために、さまざまな手法を用いて解析を進めている。特に、今回確立した組織片培養系を用いて、終脳の領域化に関与する転写因子や拡散性シグナル因子の強制発現を行い、その作用を観察しており、細胞移動に関与する分子についての検索を続けている。
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