研究概要 |
前年度に引き続き「顔全体あるいは顔の部分の動きに関する脳内活動」というテーマで研究を続けている。 これまでに「目の動きに関する脳活動」を報告しているが、今年度は「口の動きに関する脳活動」について報告した。「口の動き」の視覚刺激により明瞭な誘発脳磁場活動が観察され、その活動源はヒトの運動視中枢:MT/V5野に相当する部位に位置推定された。「口が開く」「口が閉じる」「目が動く」の刺激条件間で、活動源の位置と活動の大きさに有意な違いはなかった。これらのことから、ヒトのMT/V5野では「顔の部分の動き」が同じように情報処理されている可能性が示唆された(Miki et al.,in press)。 次に「口の動き」と「発声の認知」の関連について検討した。「/a/」という音声聴取と同時に「口の動き」を見た場合聴覚野に及ぼす影響を評価するため、聴覚誘発反応であるM100を指標として検討した。「音声聴取のみ」と「音声聴取と同時に『口の動き』を見る」の条件でM100を記録したが、両条件間で潜時、振幅に有意な差はなかった。M100の活動源は両条件ともにヘシェル回(ヒトの聴覚野)に位置推定され、その位置および活動の大きさに有意な差は認められなかった。これらの結果より、音声聴取の初期段階においてヒトの聴覚野は、同時に「口の動き」を見るという条件に影響されず情報を処理していることが示された(Miki et al.,Neurosci.Lett.2004)。 また現在「Williams症候群患児の顔認知過程」について研究を継続中である。愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所との共同研究で、主治医立会いの元で実験を行っている。Williams症候群の患者は日常的に顔認知には問題がないが、その脳内での情報処理過程は健常者とは異なることがこれまでの実験から示唆されている。今後もさらにこの研究を進めていく。
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