本研究の目的は、痛覚情報の伝達制御に重要な役割をもつ脊髄膠様質細胞において内在性オピオイドペプチドであるエンドモルフィン-1(EM-1)およびエンドモルフィン-2(EM-2)が痛覚情報伝達をどのように制御しているのかをシナプスレベルで調べることである。 本年度の研究計画は、電気生理学的な手法を用いてラット脊髄スライス標本における膠様質細胞の膜電流および興奮性シナプス後電流に対するEM-1とEM-2の作用を解析することである。まず、EM-1およびEM-2の投与による保持膜電流の変化を調べた。その結果、-70mVの保持電位において、調べた細胞の約50%でEM-1とEM-2(各1μM)の両方で外向き電流が観察された[EM-1:23.3±2.7pA(n=60)、EM-2:23.0±2.0pA(n=50)]。また、これらの作用は濃度依存的であった。さらに、逆転電位を調べた結果、EM-1で-97±3.6mV、EM-2で-97±2.4mVとなった。これはK^+チャネルの平衡電位とほぼ一致したことから、K^+チャネルの関与がより明らかとなった。次に、シナプス前終末からのグルタミン酸の自発放出によって引き起こされる興奮性シナプス後電流(sEPSC)に対するEM-1とEM-2(各1μM)の作用を調べた。その結果、sEPSCの発生頻度が両者により減少した[EM-1:58±6%(n=23)、EM-2:57±64%(n=24)]。一方、EM-1とEM-2の両方でsEPSCの振幅に変化は見られなかった(EM-1:93±3%(n=23)、EM-2:96±4%(n=24))。このことより、EM-1およびEM-2はシナプス前終末からのグルタミン酸放出を抑制していることが明らかとなった。行動実験においてEM-1とEM-2の鎮痛作用に差があることが報告されているが、今回の脊髄膠様質細胞における電気生理学的な実験結果においてはEM-1とEM-2の作用に違いは見られなかった。今回の結果より、EM-1とEM-2は脊髄膠様質細胞において膜を過分極させることで膜の興奮性を抑え、また、神経終末からのグルタミン酸放出を抑制することが明らかとなったが、これらの作用はいずれも末梢からの痛覚情報伝達の抑制に寄与すると考えられる。
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