本研究の目的は、内在性オピオイドペプチドであるエンドモルフィン-1(EM-1)および-2(EM-2)が、脊髄膠様質細胞において痛覚情報伝達をどのように制御しているのかをシナプスレベルで調べることである。 本年度の研究としては、ラット脊髄膠様質細胞にパッチクランプ法を適用して保持膜電流に対するEM-1とEM-2の作用の詳しい解析を行った。-70mVの保持電位においてEM-1とEM-2は濃度依存的に外向き膜電流を誘起し、そのEC_<50>値は各々130μM、150μMであった。また、EM-1とEM-2電流は共にμ-オピオイド受容体の阻害剤であるCTAP(1μM)によって抑制された。K^+チャネル阻害剤の作用については、Ba^<2+>と4-aminopyridine (4-AP)により同程度に抑制され、tetraethylammoniumは作用しなかった。ペプチダーゼ阻害剤Diprotin A (30μM)はEM-1とEM-2電流に相反的に作用し、EM-1電流は約30%抑制され、EM-2電流は約20%増強された。 以上の結果より、EM-1およびEM-2は脊髄膠様質細胞においてμ-オピオイド受容体の活性化を介してBa^<2+>、4-AP感受性のK^+チャネルの開口によって膜を過分極し、膜の興奮性を押えることで末梢からの痛覚情報伝達の抑制に寄与していると考えられる。また、今回Diprotin Aに対するEM-1とEM-2の作用に違いがみられ、このことが行動実験における両者の鎮痛作用の違いに関与している可能性が示唆された。 ごく最近、EM-1とEM-2が共に局所刺激により誘起されるGABAおよびグリシン作動性抑制性シナプス後電流の振幅を抑制する結果を得ている。この作用はEM-1とEM-2が膠様質細胞の膜興奮性に及ぼす作用を考える際に抑制性シナプス伝達も含めて考慮しなければならないことを示しており、今後の研究課題である。
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