研究概要 |
脳・神経系では,スパイク列と呼ばれるインパルス状の電気信号の列により,神経細胞同士が情報を交換し合うことにより,様々な情報処理機構を実現している.こうした情報処理機構を解明するためには,情報がスパイク列の中にどのように埋め込まれているか,言い換えると,スパイク列をどのようにコーディングし,情報を伝えているのかを明らかにする必要がある.スパイク列通信における情報理論の体系を構築することが最終目的となるが,当面の目標は,情報理論(Rate-Distortion Theory)の立場から,計測された神経細胞のスパイク列信号から,様々な情報を読み取るための手段,つまり解析法を開発することである. 本研究では,まず,スパイク列の情報量を推定することを目的として,エントロピーのより精密な推定法を開発した.ここでいうエントロピーは,いわゆるシャノンのエントロピーであるが,スパイク列に対し,こうしたシャノンのエントロピーを適用することを問題視する研究者も多い.しかし,これは,スパイク列の何が情報源記号,あるいは通信路記号になっているのかが未知であるがゆえに導かれた短絡的な結論,つまり誤解に過ぎないと考えている.以上についての研究成果を2度の国際会議で発表し,こうした誤解を解消するためのディスカッションを行ってきた. 更に,スパイク列における情報源記号(あるいは通信路記号)が何であるかを明らかにすることを目的として,(2)スパイク列の距離空間解析法を開発した.これにより,一定時問長の考えうるすべてのスパイク列の集合(空間)の中で,神経細胞から実際に出力されうるすべてのスパイク列の集合(空問)を距離空間上で区別することが可能になる.以上についての研究成果を4件の国内学会で発表した.
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