研究概要 |
情報理論(Rate-Distortion Theory)の立場からスパイク列の構造解析を行うためには,Rate,つまり神経細胞のスパイク列応答に含まれる情報量(エントロピー)を高い精度で推定することが重要である.スパイク列の情報量をシャノンの情報量で定義することの是非は古くから議論されており,非を唱える研究者も多い.しかし,このことに対し,本研究では,シャノンの情報量の定義が問題なのではなく,スパイク列における何を情報源記号を考えるかが問題であると考えている.したがって,これを解決できれば,一般的なシャノンの情報量を使うことができ,脳・神経系の情報処理メカニズム解明に関する研究は加速化されるはずである.こうしたことから,平成15年度では,エントロピー推定問題についての研究を進め,2件の論文にまとめた.その中の一つは,離散確率変数のエントロピーの推定精度を改善する手法である.数年前,エントロピーの推定をより精度良く行うことにより,神経細胞は,これまで考えられてきた量よりも多くの情報量を後段の神経細胞に伝えていることが示された.この研究は,Scienceに掲載されるほどの衝撃を与えた.本研究で開発したエントロピー推定法では,さらに精度良くエントロピーを推定することが可能であり,脳神経科学の発展に大きく寄与することが期待される.さらに,スパイク応答系列の構造同定を目指し,スパイク列の情報量の定義,つまりスパイク列の何を情報源記号とみなすか,また,その推定問題についての研究を行った.これらの研究成果は,次年度に開催される国際会議において発表を予定している.
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