研究概要 |
脳・神経系は,神経細胞が発するスパイク上の電気信号の列,すなわちスパイク応答系列により,情報伝達を行っている.外界情報,記憶情報などの各種情報が,どのような形でこうしたスパイク応答系列に埋め込まれているかを明らかにすることは,脳・神経学者の長年の共通の目標である.こうした研究が始められて以来,様々な説が提唱され,様々な解析法が提案されてきた.本研究では,スパイク応答解析の情報表現,情報構造に関するための基本的なアプローチはスパイク応答系列の情報量を精密に測定することであるとの立場に立って,研究を進めてきた.一般に,精度良く推定するためには,推定値の偏り(バイアス誤差)と散らばり(分散)をともに少なくすることを意味するが,情報量の推定の場合,これの2つの誤差は,互いにトレードオフの関係にあり,いずれかを小さくしようとすると,一方が大きくなるといった問題点がある.本研究では,まず,このことを理論的に示した.次に,このトレードオフを最適にする,つまり,バイアス誤差を一定値以下に抑える条件の下で,分散を最小にする推定法をいくつかの近似の下で導出し,提案した.提案した推定法は,近似が含まれているものの,最適,もしくは準最適であると考えられる.さらに,スパイク応答系列をはじめとする生体信号の解析においては,生体の順応,疲労特性により,長時間の連続的な信号計測が困難であるという問題がある.その場合,いくつかの推定結果を平均することにより,最終的な推定値とすることが多い.本研究では,更に,こうした生体解析特有の推定において,推定値の平均2乗誤差を最小化する推定法を提案した.本研究で開発したこれらの情報量推定法は,脳・神経系の解析において,多大な貢献をすることが期待される.
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