本研究は、体液環境下における、組成及び構造の異なる人工材料の表面電位及び構造の変化を追究し、生体活性材料表面での骨類似アパタイト形成機構の静電モデルを確立することにより、人工材料の生体活性の発現機構を詳細に解明し、新規な生体活性材料を設計するための基礎的指針を与えることを目的とする。 NaOH水溶液及び加熱処理により表面に生体活性なチタン酸ナトリウムを形成させたチタン金属を、ヒトの体液と等しいイオン濃度を有する擬似体液に浸漬した。種々の期間後金属表面の電位と構造を、レーザーゼータ電位測定器及ぴエネルギー分散型X線分析装置の付着した透過型電子顕微鏡により調べた。同金属は、擬似体液浸漬後その表面に負に帯電したTi-OH基を形成し、同Ti-OH基を正に帯電した液中のカルシウムイオンと結合させ、正に帯電したアモルファスなチタン酸カルシウムを形成した。同チタン酸カルシウムを後に負に帯電した液中のリン酸イオンと結合し、アモルファスなリン酸カルシウムを形成した。同リン酸カルシウムは最終的に体液中で安定な骨類似アパタイトに転化した。 通常の焼結法により調製した水酸アパタイトを、同様に擬似体液中に種々の期間浸漬した後、表面の電位と構造を調べた。同水酸アパタイトは、擬似体液浸漬後その表面を負に帯電させ、正に帯電した液中のカルシウムイオンと結合し、正に帯電したCa/P比の高いアモルファスリン酸カルシウムを形成した。同リン酸カルシウムは負に帯電した液中のリン酸イオンと結合し、Ca/P比の低いアモルファスリン酸カルシウムを形成した。同リン酸カルシウムは最終的に体液中で安定な骨類似アパタイトに転化した。 以上の結果より、体液環境下における生体活性材料表面での骨類似アパタイトの形成は、材料表面に形成された官能基と液中のイオン間の静電作用により誘起されることが明らかになった。
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