研究概要 |
癌細胞は正常細胞と比較して,その生存および増殖に際して大量の酸素と栄養分を必要とする。そのため,癌細胞は増殖や転移に際して,血管新生を誘導する。癌細胞の増殖と転移には,癌部位における血管新生が鍵を握っており,癌部位の血管に対して物理的に塞栓を形成させ,癌細胞を退縮・死滅させる塞栓療法が試みられている。 本研究では,癌細胞がその増殖と転移の際に分泌するシグナル(タンパク質分解酵素)によって活性化され,癌部位の新生血管内特異的に血栓を形成させる機能を持つ組換えタンパク質の創成を目指す。血栓形成能を持つ組換えタンパク質の候補として,血液凝固系の鍵酵素であるプレトロンビン-2(PT-2)を選択した。本研究では,PT-2のXa因子によって切断されるアミノ酸配列を,癌部位特異的なタンパク質分解酵素で切断される配列に変換することによって,癌部位特異的に血液凝固反応を活性化させ,血栓を形成させることが可能になると期待された。 (1)癌部位特異的タンパク質分解酵素の標的配列の探索 本年度は,先ず,癌部位に高発現しているタンパク質分解酵素として選択した,エラスターゼによって認識・切断されうるアミノ酸配列の最適化を行った。具体的には,これまでに報告されている,エラスターゼの様々な天然基質,および合成基質から切断アミノ酸配列を選出した。その結果,Ala-Ala-Pro-Val-Glyが最も切断を受けやすいことが判明し,本配列を変換配列の候補とした。 (2)組換えタンパク質発現ベクターの構築 マウスの肝臓からRNAを抽出し,RT-PCR法によってPT-2をコードするcDNAの単離を行った。次にPT-2cDNAの塩基配列上で,本来Xa因子によって切断されるアミノ酸配列に対して,部位特異的塩基置換法を用いて,上記(1)で選択したAla-Ala-Pro-Val-Glyに対応する塩基配列に置換した。このようにして作製した変異型PT-2 cDNAを,大腸菌組換えタンパク質発現ベクターであるpMAL-c2に挿入し,タンパク質発現プラスミド,pMAL-mPT-2を得た。
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