これまでに申請者らは、一本鎖DNAを表面上に担持した高分子コロイド粒子を構築し、その分散液に相補鎖DNAを添加すると二重鎖形成に伴って粒子が急激に凝集して系が白濁するのに対して、一塩基置換型DNAを添加した場合は全く凝集が起こらないという特異的な現象を見出している。本研究では、この凝集現象の原理を詳細に解き明かし、次世代のバイオ分析デバイスを実現するための設計指針を得ることを目指している。本年度は主に以下の2点についての知見が得られた。 1.DNA担持ナノ粒子の表面電荷量と凝集挙動の相関関係 電気泳動光散乱光度計を用いて、粒子表面のゼータ電位を測定した。15mMのMgCl_2存在下において、一本鎖DNA担持ナノ粒子のみの場合は-17.3mV、末端一塩基置換および一塩基延長サンプルDNAを添加して粒子表面上で二重鎖を形成させた場合はともに-19.5mVであった。一方、同一条件において完全相補的なサンプルDNAを添加した場合は、迅速に凝集が生じるため測定不能であった。ゼータ電位は中性に近づいているものと考えられる。以上の実験結果より、粒子の最外殻に位置するミスマッチが粒子間の静電反発を生み出すことが明らかになった。 2.DNA二重鎖を安定化する塩の影響 粒子表面で二重鎖が形成されて負電荷密度が増大すると、系中に塩として添加された金属イオンとのイオン対形成が促進されて、結果的には粒子表面が中和されると推測している。種々の金属イオンの効果を比較したところ、凝集が開始する金属イオン濃度はCa^<2+><Mg^<2+><Na^+<K^+の順になることが分かった。本現象は、親水コロイドの塩析と見なすことが出来るが、上記の順序は離液順列(Mg^<2+><Ca^<2+><Na^+<K^+)とは必ずしも一致しなかった。本研究における凝集現象においては、DNAのリン酸アニオンと金属イオンの親和性が重要な因子であることが示唆される。
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