本研究では、3次元の逆ダイナミクスと有限要素法(FEM)を併用して、非侵襲的に身体運動中の脛骨応力を推定する方法を確立するととともに、代表的なランニング障害軽減策(成型インソール)の科学的効果判定を試みた。 成人男性5名を対象として、走行の3次元動作分析実験およびMRI撮影に基づく脛骨形状のモデリングを行った。これらのデータをもとに、FEMによる脛骨せん断応力のシミュレーションを行った。本手法によって、運動にともなう負荷作用の個人差と骨形状の個人差をともに考慮した、脛骨せん断応力の非侵襲的推定に成功した。また、本研究の結果、走行中の脛骨せん断応力の個人差は、骨形状よりも負荷作用に強く依存することが明らかとなった。本研究成果は、関連国際学会(International Society of Biomechanics XIXth Congress)で高い評価を受け、学会賞(NAC/Miyashita Asian Award)を受賞した。 上記研究結果に基づき、負荷軽減策としての成型インソールに着目した。この着用効果を検証することを目的として、成人男女28名を対象とした走行の動作分析実験を実施した。この結果、成型インソールの着用によつて、特に着地衝撃が大きい走者では、着地時の地面反力が著しく軽減されることが明らかとなった。本成果は、国内学会において発表するとともに、査読論文として公表した。更に、一部の被験者では、成型インソールの着用によって、走行中の脛骨捻り負荷が有意に軽減することも確認できた。 本研究では、逆ダイナミクスとFEMを併用することによって、個人差をともなう走行中の脛骨せん断応力を非侵襲的に推定できた。更に、走行時の脛骨せん断応力は、骨形状よりも負荷作用に強く依存することが明らかとなり、成型インソールの着用によって、走行時の脛骨応力を効果的に軽減できる可能性が示された。
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