本研究では、生体内に存在する非線形性を利用して外部からの電気的な入力によって生体のリズムを制御をおこない、材料の機能性を増幅させることを目的とし、これらの成果を細胞工学および再生医療への応用へ目指す。本年度はその試みの初期段階として、エネルギー変換および情報伝達の二面性を併せもつ心筋細胞に電気刺激を印加させ、自律的収縮リズムの制御についての研究を行なった。ラット胎児から取り出した心筋細胞に酵素処理を施して解離させ、不純物を取り除いた後にフィブロネクチンでコーティングしたITO電極上に展開させた。およそ48時間後から自発的な収縮を光学顕微鏡下で確認し、時間の経過とともに自己集合的にほぼ単層状に電極上を伸展していく。このサンプルに対して、パルス幅10msの矩形波を刺激強度(I:0.5-3V)、周波数(ω:1-5Hz)を二つのパラメータとして周期的に印加させた。固有収縮周期が平均3秒前後で揺らいでいるサンプルにおよそ1V以上の電気刺激に対して1:1で完全に同期する。刺激強度を一定に保ったまま周波数を徐々に増加させていくと、およそ3Hz以上から周期倍分岐が観測された。これらの結果をもとに二つのパラメータに対して相図作成した結果、高刺激強度・高周波数領域ではカオティックな多様な挙動が電気刺激によって得られることが示された。また同時に蛍光観察法を用いて収縮時のカルシウムイオンを可視化することにより、これら電気刺激時におけるカルシウム振動をリアルタイムでモニターすることに成功した。
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