16年度は培養心筋細胞内カルシウム発火の統計解析および3年間の研究の総括が行なわれた。 酵素処理により単離したラット心筋細胞を透明電極上に培養し、外部電気刺激により収縮リズムの制御を行なった。刺激強度と周波数をパラメータとする相図は非線形振動子において観測されるものと類似した結果を得た。あるパラメータ領域では高次のリズムやカオティックなものも観測された。 我々はさらに電気刺激に対する心筋ネットワークの応答を調べた。2次元平面上に培養された心筋細胞は時間の経過に細胞ネットワークを形成し、ギャップジャンクションを介した局所結合により集団としての振る舞いを示す。この挙動を蛍光色素を用いて細胞内カルシウム濃度変化を可視化を行ない動画像データとして集録した。得られた画像データより発光強度による時系列データを構成した。これをもとにして、系の状態を統計的性質を通して同定を行ない、機能性およびエネルギー変換の指標となりうる量の導入を試みた。 これらの知見をもとにして、一連の処理、つまりデータの取り込みおよび解析を瞬時に実行し、上述した電気的外部刺激を入力信号とするリアルタイム制御を行ない、細胞が示す機能性の増幅についての実証および考察も行なってきた。これら研究結果の一部はBiophysical Chemistry誌に投稿され、近日中に掲載が決定されている。 本研究の成果により、外部刺激(電気、光、薬物)による細胞活性の制御にもとづいた医用工学や再生医療への応用が期待される。
|