近赤外光利用生体診断装置は酸素化ヘモグロビンと脱酸素ヘモグロビンの吸収スペクトル差を利用して無侵襲で簡便に生体の酸素飽和度等の生理情報を得られるところから、医療現場のみならず、脳科学、スポーツ工学など広い分野で酸素代謝のモニタリングが出来る装置として利用が広まっている。しかし、光は生体組織により強く散乱されるため、その実効光路長は光源-検出器間距離よりもかなり長いものとなる。従来の近赤外光利用生体診断装置は連続光源と検出器からなるため、この実効光路長を測定することはできず、酸素飽和度の変化率といった定性的なデータしか得られなかった。一方、時間的なパルス幅が極短いパルス光源と高速検出器からなる時間分解測定により、この実効光路長は測定可能である。この実効光路長データをもとに、生体の各部位における平均的な光路長がわかれば、従来の連続光利用診断装置により定量的な測定が可能となる。本研究では、時間分解測定が可能な光イメージング装置を用い、最大16chの同時測定を行い、生体の各部位における平均光路長を計測し、マップを作製する。平成15年度は成人男子頭部右側の前額部、側頭部、後頭部の3領域の平均光路長測定データの妥当性を検討するため、反射型測定を対象とした断層イメージングアルゴリズムを開発、測定データから頭部各層の光学特性値を推定した。さらにその値をもとに生体頭部の光伝播シミュレーションを行い、平均光路長を求め、測定結果との比較を行った。また、平均光路長データの検討を行い、年齢差、肌色などの個人差の影響を明らかにした。また、上腕、下肢については、筋肉や血管などの影響が見られたため、測定箇所と同じ場所のMRI画像を取得し、血管や骨、筋肉あるいは脂肪などの位置を確認し、光イメージとの比較を行ない、各組織による光イメージへの影響を明らかにした。これらの結果を各種会議等で発表し、特に臨床応用の観点におけるデータの有用性について高い評価を受けた。
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