研究実績の概要 |
小児におけるウイルス感染症は,成人に比較して死亡率の高さと後遺障害の重篤性よりmedical emergency として重要である.全身管理と抗ウイルス薬の選択,非ウイルス性疾患との鑑別のためには,迅速かつ鋭敏な検査法の確立が希求される.Pham Thi Kim Ngan は1996年にホーチミン大学を卒業,感染症科臨床に従事し,2005年から東京大学に留学し2013年9月からは学振特別研究員に選定された.1年目の学問的業績としては,ベトナムやタイなど東南アジア諸国と日本における小児感染症の診断法の開発と分子疫学的手法を用いた臨床ウイルス学的解析を挙げることができる.その結果,血液,髄液,腸管粘液などの臨床サンプルを用いて,日本脳炎ウイルス,HSV-1,2,HHV6, A型インフルエンザ、エンテロウイルス,パレコウイルス,デングウイルス,アデノウイルスなど10種類以上のウイルスを同時に検出できる方法を開発した.本法は特に医療インフラの整備されない途上国において有用な簡易検査法として期待できる. 細菌感染症に対しては臨床的に抗菌薬が適応となるが,ウイルス感染にはインフルエンザやHIV, HSVのような一部の例外を除き有効な抗ウイルス薬は少なく, 不適切な抗菌薬使用は耐性誘導につながる. キャンピロバクターによる胃腸炎はウイルス性胃腸炎と臨床的には鑑別が困難である. Phamは、我が国と東南アジアの検体を用いて, LAMP法によるキャンピロバクター検出法を開発し,本法がPCRや培養と同等の感度と特異性があること, LAMP法陽性のタイの小児151例成人310例の検体で大部分がC. jejuni であって, C. coli 症例は少ないこと, 前者はタイ,日本ともにフルオロキノロン耐性が多く(特に日本では90%以上)成人ではマクロライド耐性も少なくないことを明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床的検体を用いてウイルス学的な解析と,分子系統樹の作成、宿主の免疫応答を解析する基礎技術を取得し,タイやベトナムからの臨床検体の移入と解析もルチーンに行える体制を確立した。特にLAMP法によるキャンピロバクター検出システムを確立し,本法がPCRや培養法と同等以上の感度と特異性があること,ノロウイルスやロタウイルスの混合感染少なくないことを明らかにした学問的価値は大きい.
|
今後の研究の推進方策 |
26年度に確立した方法論をもとに,東南アジア諸国と日本の医療施設から収集した検体を用いてより多数の症例で検討を行う.下痢症ウイルスとキャンピロバクター,サルモネラなどの細菌感染合併例についてはどちらが臨床的に主なのか,またウイルス性下痢症の増悪因子としての腸内細菌叢を検討し,併せて培養膣上皮,腸管上皮細胞と常在菌の相互作用をin vitroで検討する.
|