本研究では森林生態系の土壌と林冠樹木の温暖化応答を野外で実験的に明らかにすることを目的とした。実験は,今後温暖化の影響が出やすいと予想される緯度や標高の異なる2地点の冷温帯地域の落葉広葉樹林(岐阜大学・高山試験地,北海道大学・苫小牧研究林)で行った。 高山試験地および苫小牧研究林ともに,土壌の昇温処理により土壌呼吸速度は高くなった。土壌呼吸速度の増加は植物根呼吸と土壌微生物呼吸の両方の活性が上がったためであった。苫小牧では無雪期間の土壌呼吸速度の上昇幅は32~45%であり,微生物と根呼吸速度のそれぞれの上昇幅は約40%と約16%だった。高山では土壌呼吸速度は10-22%上昇し,微生物呼吸は約47%,根呼吸は約10%だった。土壌呼吸には温度上昇の影響が見られたが土壌炭素蓄積量には顕著な影響が見られず,植物根の成長は温度上昇により増加した。 高山と苫小牧ともに,土壌呼吸速度は明瞭な季節変化を示した。土壌呼吸速度は地温が高く,また森林地上部の光合成活性の高い季節である夏に高い傾向が認められた。季節を通じた地温の変化と土壌呼吸速度の変化の関係性に加えて,根呼吸と微生物呼吸の日変化がそれぞれ地温の変化から数時間遅れて生じることが高山で明らかになった。日・季節・年という異なる時間スケールでの土壌呼吸速度の変動をモデル化することにより,土壌呼吸速度の推定精度を向上させることができた。 土壌呼吸速度の温度反応曲線は土壌温暖化区と対照区で異なることが明らかになった。土壌の昇温は土壌中の植物根と微生物の呼吸活性を上げることにより春と秋のCO2放出量を増加させた。温度反応曲線の傾きは温暖化区の方が対照区に比して低下したことが発見された。この現象をシミュレーションモデルで予備的な解析を行った結果,土壌呼吸速度の温度馴化反応を考慮しないと将来環境での土壌呼吸速度が過大評価されることが示された。
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