スピッツァー、あかり、ハーシェル衛星による星生成トレーサーの比較研究

2014 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14F04022
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 尾中 敬 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30143358)
• 研究分担者: WU Ronin 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
• 研究期間 (年度): 2014-04-25 – 2016-03-31
• キーワード: 赤外線観測 / 分光観測 / 星生成領域 / 光解離領域

研究実績の概要

近年の赤外線衛星の近傍の銀河及び星生成活動領域の観測から、従来考えられていた光解離領域に加えて、衝撃波により暖められていると考えられるガスを持つものも検出され、衝撃波がエネルギー収支に重要な役割を果たしていることが示唆されると同時に、銀河の赤外線スペクトルは非常に多様であることがわかってきた。銀河の星生成活動を理解するには、近赤外線から遠赤外線までの広い波長域のスペクトルを統一的に解析することが必要である。本研究では、「あかり」、スピッツァー、ハーシェル衛星による銀河系、近傍銀河の分光、撮像データを総合的に解析し、銀河内の個々の領域におけるガス、ダストの物理状態を導き、星生成活動過程との関連を明らかにする。本年度はハーシェル衛星の長波長分光器SPIREのデータの回折による空間分解能の変化を考慮して画像を作成する手法を完成し、近傍銀河M83に適用して、その中心部の星生成領域の物理状態を抽出した。[CI]の370, 609ミクロン、[NII]204ミクロン輝線とともに、COのJ=4-3から13-12までの回転遷移線を検出し、地上からのCO J=1-0, J=3-2の観測と合わせてモデル解析を行った。この結果、ガス圧力が輻射圧よりはるかに大きいことを見出した。このことは輻射エネルギーだけではCOの高Jの遷移線強度を説明できないことを示し，最近の核付近の星生成活動に関連する運動により励起している可能性を示唆した。さらに我々がもつハーシェル衛星による星生成活動領域の分光データ解析に着手し、スピッツァー衛星の中間赤外線スペクトルを用いて、ダストバンドとガスの物理状態の関連を明らかにする研究を進めた。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ハーシェル衛星搭載の長波長分光器SPIREについて各波長での空間分解能の相違を詳細に補正する手法を取り入れて、観測空間分解能を最大限に活かしたハーシェル衛星データの解析を行なった。この手法を近傍銀河M83に適用し、その中心領域の物理状態を導いた。また同じ手法を我々が観測した竜骨座星生成領域のデータに適用したところ、これまでの解析では見られていなかった非常に興味深い構造が、観測領域の一部に一酸化炭素の輝線マップに見られることが示された。高回転準位の輝線まで検出していることもわかり、この領域の物理状態を有効に制限できることが示された。

今後の研究の推進方策

次年度は、竜骨座星生成領域の他波長のデータも取得し、ハーシェル衛星のSPIREだけでなく、PACSによる分光データの解析も同様の手法で行う。これらの結果を光解離領域のモデルとの比較し、各観測点での物理状態を解明することを行う。まずは、単純な輻射輸送のモデルを適用し、大まかな物理状態の把握を進める。またMSX、あかりの中間赤外線サーベイデータも活用し、この領域の中間赤外線を放射しているダストの性質についても解析を進める。平行して、「あかり」衛星のデータとハーシェル、スピッツァーが共通に観測した近傍銀河を抜き出す作業を進める予定である。

研究成果

• [国際共同研究] CNRS/Observatory of Paris(France)
  • 国名: フランス
  • 外国機関名: CNRS/Observatory of Paris
• [雑誌論文] Spatially resolved physical conditions of molecular gas and potential star formation tracers in M 83, revealed by the Herschel SPIRE FTS (2015)
  • 著者名/発表者名: Wu, R., Madden, S. C., Galliano, F., Wilson, C. D., Kamenetzky, J., Lee, M.-Y., Schirm, M., Hony, S., Lebouteiller, V., Spinoglio, L., Cormier, D., Glenn, J., Maloney, P. R., Pereira-Santaella, M., R\\'emy-Ruyer, A., Baes, M., Boselli, A., Bournaud, F., De Looze, I., Hughes, T. M., Panuzzo, P., and Rangwala, N.,
  • 雑誌名: Astronomy and Astrophysics 巻: 575 ページ: A88 (28pp)
  • DOI: 10.1051/0004-6361/201423847
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] The cool and warm molecular gas in M82 with Herschel-SPIRE (2015)
  • 著者名/発表者名: Kamenetzky, J., Glenn, J., Rangwala, N., Maloney, P., Bradford, M., Wilson, C. D., Bendo, G. J., Baes, M., Boselli, A., Cooray, A., Isaak, K. G., Lebouteiller, V., Madden, S., Panuzzo, P., Schirm, M. R. P., Spinoglio, L., and Wu, R.
  • 雑誌名: Highlights of Astronomy 巻: 16 ページ: 618
  • DOI: 10.1017/S1743921314012472
  • 国際共著
• [雑誌論文] Star formation rates from young-star counts and the structure of the ISM across the NGC 346/N66 complex in the SMC (2015)
  • 著者名/発表者名: Hony, S., Gouliermis, D. A., Galliano, F., (20 others) and Wu, R.
  • 雑誌名: Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 巻: 448 ページ: 1847--1862
  • DOI: 10.1093/mnras/stv107
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] In-orbit performance of the Herschel/SPIRE imaging Fourier transform spectrometer: lessons learne (2014)
  • 著者名/発表者名: Naylor, D. A., Baluteau, J.-P., Bendo, G. J., (20 others) and Wu, R.
  • 雑誌名: Proceedings of SPIE 巻: 9143 ページ: 91432D (15pp)
  • DOI: 10.1117/12.2054989
• [学会発表] Physical properties of molecular gas and dust in the star-forming regions (2015)
  • 著者名/発表者名: Wu, R.
  • 学会等名: 31th Grain Formation Workshop
  • 発表場所: 強羅静雲荘（神奈川県足柄郡箱根町）
  • 年月日: 2015-01-07 – 2015-01-09
• [学会発表] Dust processing in the interstellar medium (2014)
  • 著者名/発表者名: Onaka, T. Okada, Y., Mori, T. I., Nakamura, T., Hammonds, M., Wu, R., Sakon, I., and Ishihara, D
  • 学会等名: International Conference on Interstellar Dust, Molecules and Chemistry 2014,
  • 発表場所: Tezpur, India
  • 年月日: 2014-12-15 – 2014-12-18
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Spatially resolved physical conditions of molecular gas and potential star-forming tracers in M83, revealed by the Herschel SPIRE FTS (2014)
  • 著者名/発表者名: Wu, R., Madden, S., Galliano, F., and Wilson, C.
  • 学会等名: International Conference on Interstellar Dust, Molecules and Chemistry 2014,
  • 発表場所: Tezpur, India
  • 年月日: 2014-12-15 – 2014-12-18
  • 国際学会
• [学会発表] Spatially resolved physical conditions of molecular gas and potential star formation tracers in M83, revealed by the Herschel SPIRE FTS (2014)
  • 著者名/発表者名: Wu, R.
  • 学会等名: 日本天文学会2014年秋季年会
  • 発表場所: 山形大学（山形県山形市）
  • 年月日: 2014-09-11 – 2014-09-13
• [学会発表] Spinning Dust and AKARI: A Multi-wavelength Investigation of PAHs in AME Regions (2014)
  • 著者名/発表者名: Bell, A. C., Onaka, T., Sakon, I., Doi, Y., Usui, F., Ishihara, D., Kaneda, D., Giard, M., Ohsawa, R., Hammonds, M., Wu, R., Mori, T. I., and Lee, H.-G.
  • 学会等名: THE UNIVERSE IN THE LIGHT OF AKARI and Synergy with future Large Space Telescopes
  • 発表場所: Oxford, U.K.
  • 年月日: 2014-07-09 – 2014-07-11
  • 国際学会