研究課題
イネの鉄過剰応答の分子メカニズムを解明するために、平成26年度には、まずイネを様々な鉄過剰条件下で水耕栽培した。生育状況の詳細な観察を行い、鉄過剰における生理学的応答を調べた。この結果に基づいてマイクロアレイ解析に供する試料の鉄濃度を決定し、通常条件 (鉄:1倍) と、鉄濃度を段階的に増やした5種類の鉄過剰条件 (鉄:10倍、20倍、30倍、50倍、70倍) でイネを栽培した。平成27年度には、鉄過剰条件下で栽培したイネを根、茎、新葉、古葉など様々な部位に分けて詳細なマイクロアレイ解析を行った。生育検定と共に各部位の金属含有量を測定した。各鉄過剰処理による生育への影響と、遺伝子発現の変化の関係を考察した。鉄過剰において発現が段階的に誘導される遺伝子、抑制される遺伝子、強度の鉄過剰でのみ発現が誘導、または抑制される遺伝子など、様々な発現パターンが存在することが明らかとなった。新葉と根では、10倍から70倍の鉄過剰処理で、発現する遺伝子のパターンに大きな違いはなかったが、古葉では、鉄濃度が増加するにつれ、鉄以外のストレス関連遺伝子の発現が大きく増加し、また10倍と70倍では発現が誘導される遺伝子が大きく異なっていた。これらの結果をもとに、イネの鉄過剰防衛機構のモデルを考察した。さらに、マイクロアレイ解析により鉄過剰で発現が上昇した遺伝子の一つについて、詳細な解析を行った。promoter-GUSによる発現解析の結果、古葉での発現が鉄過剰により葉の一部から全体へと広がっていることが分かった。また、その遺伝子の過剰発現体や発現抑制体を用いて、鉄過剰条件で栽培することによって、この遺伝子の鉄過剰応答における機能を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
マイクロアレイの実験には良質な植物サンプルを用意することが大変重要である。平成26年度中に実施を予定していたマイクロアレイ解析は平成27年度になったが、イネの鉄過剰栽培に関する予備実験を事前に何度も繰り返したため、最適な条件を決めて鉄過剰処理が出来、良質な処理サンプルを用いてマイクロアレイ実験を行うことができた。また、単純な通常条件と鉄過剰条件との比較だけでなく、様々な鉄濃度処理による鉄過剰条件で行ったこと、またイネを根、茎、新葉、古葉など、様々な部位に分けてより詳細なマイクロアレイ解析を行ったことにより、計画時に予定していたよりも、さらに有効な実験結果を得ることができた。
本研究課題の終了期限である9月半ばまでには、鉄過剰応答に関連する遺伝子のtDNA挿入変異株について、鉄過剰条件下における栽培と表現型の評価を行う。また、本外国人研究員の出身地のミャンマーでも鉄過剰は問題となっており、ミャンマーで現在栽培されている主要なイネ品種を、鉄過剰条件で水耕栽培し、生育を調べて、鉄過剰耐性の評価を行う。加えて、イネの鉄過剰処理によるマイクロアレイでの発現解析結果を論文にして発表するため、Real Time RT-PCRなどの必要な実験を行う。さらに、6月にスペインのマドリードで開催される国際植物鉄栄養学会 (ISINIP)で得られた研究成果を発表する予定である。
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Myanmar Agricultural Research Journal
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