研究課題/領域番号 |
14F04091
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 剛 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40230809)
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研究分担者 |
NEOH Kok Boon 京都大学, 生存圏研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | シロアリ / 荒廃泥炭地 / 自然火災 / 復興 |
研究実績の概要 |
インド-マレー地域は世界の泥炭地の62%を占めている。現在、違法伐採や急激な農地への転用の結果発生する泥炭地における自然火災が大きな問題となりつつあり、熱帯のエコシステムに重要な役割を有するシロアリ相への影響が懸念されている。しかしながら、東南アジア泥炭地におけるシロアリ相に関する生態学的研究は非常に少ない。 平成26年度は、スマトラ島リアウの泥炭地を対象とし、火災跡地およびその周囲に存在する森林についてシロアリ相の調査を実施した。さらに、火災跡地を森林から1km以内にあるエリア(森林影響火災跡地)と1kmを越える距離にあるエリア(孤立火災跡地)に分け、森林の影響を指標とした調査結果の比較を行った。得られた成果は以下の2点にまとめることができる。 1.火災跡地からは5~10種のシロアリが、周囲の森林からは10~15種のシロアリが採集され、種数としては統計的に有意な差は認められなかった。自然火災時の土壌表面温度は400℃に達し、地中30 cmでもまだ50℃、最終的には地中60 cmまで熱が伝わることが知られている。シロアリの多くは地中20~30 cmを移動および営巣場所として利用しており、その事が自然火災によるシロアリ相の変化を説明しうる。 2.各調査地における種構成には大きな違いが観察され、孤立火災跡地では木材内に営巣する木材摂食性3属のみが採集され、養菌性シロアリと土壌食シロアリは消失していた。一方、森林影響跡地からは、これらに加えて樹上や地表に営巣する2亜科のシロアリが採集された。自然火災の影響を勘案すると、これら2亜科のシロアリは周辺に存在する森林から火災後に供給されたものであると考えることができる。つまり、周囲に存在する森林がエコシステム供給者としてのシロアリ相の回復に重要な役割を有していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は予定通りインドネシア・スマトラ島リアウの泥炭地において種々のランドスケープにおける調査を実施することができた。海外における野外調査には調査許可の取得や現地の手伝いの手配など、場合によっては長期間の段取りが必要となるが、この点についてはまずは順調に研究を実施することができた。また、得られた結果の予備的な考察内容については、オーストラリア・ケアンズで開催された国際社会性昆虫学会において発表を行い、参加者より有意義なコメントを得ることができた。さらに、平成26年度の調査により、シロアリとアリ、特に侵入外来アリとの相互作用に関していくつかの新しい研究課題を発見することができた。 以上の実施状況より、研究はおおむね順調に推移していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の平成27年度についても、平成26年度に引き続きまずシロアリ相に関する下記のサンプリングと分析を継続して実施する。 1) インドネシア・リアウ泥炭地における種々のランドスケープからの土壌およびシロアリ試料の採集 2) シロアリ試料の同定およびシロアリと土壌の炭素・窒素同位体分析によるシロアリ餌物質の推定と土壌生態系へのシロアリの役割の考察 1)については、より信頼性の高いデータを得る目的から平成26年度と同じランドスケープにおいてサンプリングを実施する予定である。2)については、インドネシア当局の許可を得て試料を日本に持ち帰り、平成26年度と同様な方法で実体顕微鏡を用いた種の同定を行う。また、平成26年度の試料とあわせてシロアリと土壌の同位体分析を実施し、炭素・窒素分析によるシロアリ餌物質の推定と土壌生態系へのシロアリの役割の考察を行う。平成26年度と同様、サンプリングは現地の学生を雇用して実施する予定である。 さらに、平成27年度は泥炭地の火災跡地におけるアリ相の調査もあわせて行う予定である。具体的な方法は次の通りである。平成26年度と同じ試験地を用い、シロアリの場合と同じ方法でアリ類のサンプリングを実施し、多様性に及ぼす火災の影響を検討するとともに、火災跡地における侵入外来アリ種の出現頻度と土壌生息性シロアリへの影響を評価する。最終的な研究結果をとりまとめ、学術誌への投稿を行うとともに、平成28年2月に中国で開催される予定の環太平洋シロアリ学会で発表を行う予定である。
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