研究課題
コランジオカルチノーマ(胆肝癌:CCA)は、タイでは最も予後が悪く頻度の高い悪性腫瘍であるが、日本や海外においてもその増加傾向が注目される様になっている。近年、がん幹細胞の概念が導入され、CCAにおいてもこれらの存在が示唆され、これを用いたCCA悪性化メカニズムの解明が期待されている。本研究では、CCAとCCA幹細胞を中心に、悪性腫瘍分化に関わる特異的糖蛋白質の同定と、その修飾構造の詳細な構造解析、およびその生物学的意義を解明する。患者組織から確立されたCCA培養細胞と、これらの幹細胞への脱分化細胞モデルにおいて、悪性分化による分子発現パターンの変化を明らかにし、これらのコア蛋白質や糖鎖修飾責任酵素の阻害効果、これによる抗がん剤感受性の変化、これら分子に対する抗体の医薬品としての開発の可能性を検証し、腫瘍化メカニズム解明と標的分子群の臨床応用を目標とした。本年は、CCA培養細胞の脱分化による幹細胞作製と、細胞内蛋白質の翻訳後修飾の変動、特にo-GlcNacylationに注目した。幹細胞培地にてCCA細胞を培養したところ、最も未分化とされるM055細胞において一週間で徐々にsphere状に形態変化し、これらはFCSを添加することによって、再分化することが判明した。この細胞においてはsphere状態で培養を続け、現在17回目の継代培養を経た細胞において、幹細胞マーカーおよびo-GlcNacylationの特異抗体を用いて解析したところ、shere状態のCCAには幹細胞マーカーであるCD44等、およびOGPの発現が亢進する事がわかった。同時進行で行っている、Glioma癌細胞についても同様にo-GlcNacylationの顕著な増加が観察された。現在、o-GlcNacylation修飾分子および責任遺伝子の同定と、癌幹細胞の分化・脱分化との関連性について詳細な解析を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画にしたがって、CCAの脱分化および再分化モデルの作成と、同時進行でのGSC分化誘導モデルの確立,これら癌幹細胞モデルの特異的発現分子群および分化制御分子群の探索・同定は順調に進んでいる。特に糖修飾の1つo-GlcNacylationに関して、同責任酵素および代謝経路に関する画期的な発見があり、当初の計画以上に様々な方向性で実験が進行している。
独自にCCA特異抗体クローンとして分離し,未だ糖鎖エピトープの構造が同定されていないCCA特異的抗体KKU-S121および他の4クローンの糖鎖構造の詳細解析を引き続きグライコプロテオミクスによって行う。同時進行として、患者組織から確立されたCCA培養細胞を用いて、これらの幹細胞への脱分化、および幹細胞から相西岸細胞分化の細胞モデルと特殊培養法を確立する(既にM015細胞において確立した)。これらの細胞の悪性度の評価を癌幹細胞評価法に従って行い、最終的には動物移植評価を行う。これら細胞モデルと特異的CCA抗体群、および各種レクチンをプローブとして、幹細胞と悪性分化における細胞形態、および分子発現パターンの変化を、タイムラプイス顕微鏡観察、独自開発によるレクリンアレイ、融合グライコプロテオミクス解析システムを用いて行い、幹細胞維持と悪性腫瘍分化に関わる糖鎖修飾タンパク質を中心とした分子群の検出と同定を行う。特に、糖修飾の1つo-GlcNacylationに関して、同責任酵素および代謝経路に関する詳細な解析を加えて行う。これらの阻害剤(siRNA)設計とその効果、これによる抗癌剤感受性の変化、標的分子に対する抗体の効果(動物実験を含む)、これら分子に対する抗体及び阻害剤の医薬品としての開発の可能性を検証する。糖タンパク質をターゲトとする(抗体)医薬樹立を目標として、これらが悪性腫瘍のバイオマーカーや治療ツールとして有用であるかどうかを検討する。糖鎖解析においては、産業総合研究所の成松久先生、米国Boston大学のDr. C.E. Castello教授の国際協力をいただく予定。研究の成果発表は、熊本における日本プロテオーム学会、名古屋の日本癌学会、神戸における日本生化学会分子生物学会合同大会を予定している。
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