研究実績の概要 |
有鉤嚢虫症はテニア科条虫に属する有鉤条虫の幼虫の寄生に起因し、時に脳に寄生することにより致死的病態を引き起こす。有鉤嚢虫症は、ラテンアメリカでは脳内寄生のみによるものが大多数であるのに対し、アジアでは、脳内と他組織(主に皮下、筋肉)への寄生によるものが通常である。このような病態の差異を生じさせる組織指向性に関して、なぜアメリカ分離株とアジア分離株間で異なっているのか明確な解答は得られていない。そこで、ゲノムの塩基配列を株間で比較することにより、組織指向性を規定する因子の探索を試みた。同時に、血清中の寄生虫由来DNA検出法の確立を試みた。 有鉤条虫のゲノム塩基配列を決定するために、タイ分離株では約12G、インドネシア分離株では約10Gの塩基配列データを取得することが出来た。アセンブルソフトAbyssならびにVelvetを用いてアセンブルを実施した結果、タイ分離株においては、Abyssでは最長鎖長820,191bp、velvetでは最長鎖長479,322bpの塩基配列が、インドネシア分離株においてはAbyssでは最長鎖長820,084bp、velvetでは最長鎖長479,322bpの塩基配列がアセンブルされた。今回得られた鎖長は短いため、全塩基配列を得るためにはさらなる塩基配列の取得が必要と考えられた。 有鉤嚢虫感染ブタの血清虫に寄生虫由来のDNAが存在するか否かを確認する必要があるが、有鉤嚢虫感染ブタ血清を日本で調整することはきわめて困難である。そこで、有鉤嚢虫と同様に血管外寄生する条虫である多包虫を用いて、血管外寄生虫由来DNAの血清からの検出を試みた。多包虫が腹腔内に寄生しているマウスから血液を経時的に採取し、血清中の多包虫由来DNAの有無をPCR法にて確認した。その結果、PCRを2回実施することにより、マウス血清からPCR産物を得ることが出来た。
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