研究課題/領域番号 |
14F04329
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前野 悦輝 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80181600)
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研究分担者 |
ANWAR Muhammad Shahbaz 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導近接効果 / 強磁性薄膜 / スピン三重項超伝導 / 奇周波数超伝導 / 超伝導素子 / ルテニウム酸化物 |
研究実績の概要 |
本研究「スピン三重項超伝導体と強磁性体の新奇超伝導接合素子」の目的は、スピン三重項超伝導体と強磁性金属の接合系を開発して、その近接効果を研究し、従来の超伝導接合素子では得られなかった新奇な現象の確立を目指すことである。従来の超伝導体と特殊な複合磁性層構造を組み合わせた素子ではなく、超伝導体としてスピン三重項超伝導体Sr2RuO4を用いることで、単一の強磁性体SrRuO3中に直接的にスピン三重項対を浸み込ませるという、全く新しい発想に基づく単純な構造の接合素子での強磁性・超伝導近接効果を明らかにする研究を進めている。 H26年11月に開始して以来、12月には投稿中の論文を出版した。この論文では、スピン三重項超伝導体Sr2RuO4単結晶表面に、強磁性金属SrRuO3の薄膜がエピタキシャル成長することを初めて報告し、二層系界面の電気導電性が高いことと、強磁性モーメントがバルクのSrRuO3より大きくなる可能性などを明らかにした。この二層系の製膜技術は確立でき、様々な厚みのSrRuO3薄膜について信頼できるデータが出始めている。 この系で面内圧縮されたSrRuO3の薄膜の磁性や電子状態の変化について、京都大学での磁化測定に加え、共同研究でのソウル国立大での光学伝導度実験、マックスプランク固体研究所(シュトゥットガルト)によるスピン偏極中性子線を用いた強磁性モーメントの空間分布検出などの研究を進めている。 それと同時に、理研との共同研究による二層系に対する微細加工接合素子で、超伝導近接効果の研究を着々と進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画していた製膜技術の確立・接合素子化などが、計画通り順調に進捗したことに加え、超伝導近接効果のデータ収集が予想以上に進んだ。特に、SrRuO3薄膜の磁気モーメントが異常に大きいことを確認し、また、強磁性体中に強い超伝導近接効果が起こっていることを強く示唆するデータが得られたことは既に大きな成果といえる。これらの成果については、ドイツ及び韓国での国際会議、また日本物理学会で発表した。国際共同研究についても、Anwarがスイス(ミュオン実験)、ドイツ(スピン偏極中性子回折)、オランダ(超伝導近接効果)などの共同研究者の研究現場を訪問し、前野がソウル国立大(製膜、界面原子像観察、光電子分光等)を訪問して、実験及び理論について議論を進め、理解を深めるための素地作りができた。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度は以下の項目について更なる研究推進を図る。 (1) ルテニウム酸化物の強磁性金属/超伝導体二層系素子について、高純度の超伝導Sr2RuO4の単結晶育成を継続し、様々な膜厚の強磁性薄膜SrRuO3との二層系試料を数多く成長させる。さらに日本女子大学・理研との共同研究で微細加工を行い、素子構造に整形する。 (2) Sr2RuO4単結晶上のSrRuO3薄膜の基本的性質、特に磁気的性質を明らかにする。Sr2RuO4だけでなく、SrTiO3 など多くの酸化物の単結晶基板上にSrRuO3薄膜を育成し、それらの強磁性転移温度や磁気モーメントを定量的に比較する。そしてSr2RuO4/SrRuO3で磁化が異常に大きくなるという最近我々が得た実験事実を確証し、そのメカニズムを明らかにすべく、国際共同研究も含めて研究を進める。 (3) SrRuO3/ Sr2RuO4の二層系素子でのアンドレーエフ散乱・臨界電流などのデータ収集を進め、強磁性体への超伝導の浸み出しの特性およびその機構を明らかにするための実験データを獲得する。特に奇周波数ペアリング生成の視点からの解釈を進める。 (4) 超低速ミュオンのスピン回転(スイス)、スピン偏極中性子線を用いた磁性研究(ドイツ)や光電子分光(韓国)をはじめとする多くのの国内・国際共同研究を展開する。SrRuO3薄膜の強磁性磁区構造を可視化するための走査型AFM観察の国内共同研究も実施する。
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