申請者は裾野が広く様々なサブシステムの因果が複雑に錯綜する環境問題に対して社会的に有意な方策を提示するには人間-環境-社会システムのモデル化が必要であると主張してきた.環境問題の解決には,各物理システムを抉出して分析/要素還元的に観る従来的アプローチだけでは不十分で,物理システムたる「環境」とそれを操作する主体である「人間」,加えてマスとなった人間がまま見せる創発的自己組織化現象を捉える上での「社会」の枠組みを相互浸透的に連成系として扱う理論的フレームワークが要請される.具体的には,ヘテロなネットワークで構成された人間社会システムにおける協調行為の創発機構をサイエンスとして解明することが,省エネルギー指向ライフスタイルへの転換を誘発させる社会的応用に繋がると考える.実際,エネルギー消費行動や地球環境問題は,社会ジレンマの一つのクラスであるチキン型ジレンマを有し,有限資源の争奪により惹起される,所謂,資源割り当て問題と同相の数理構造があることが解っている. このような背景から本研究課題では,世界における進化ゲーム理論研究をリードする若手第一人者であるWang Zhen博士を招聘し,以下の研究成果を得た.すなわち,進化ゲーム理論の規定を為す2×2ゲームのジレンマ強さを評価するスケーリングファクターとして,先に導出したDgおよびDrを補完する,Dg’とDr’を新たに定義し,これによれば,Nowakの提示した5つの社会粘性システムを加味した互恵機構込みのゲームにおけるジレンマ強度を正当に評価できることを証明するとともに,広範な数値実験により演繹結果が正しいことを検証した.この成果は,物理学において権威のある論文誌Physics of Life Reviewsに掲載された.
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