現在,膝関節や股関節に変形性関節症が生じた場合,末期の状態では人工関節置換術が唯一の方法であるが,関節を本来の姿に戻す再生医療的な方法も広く検討されている.しかし,複雑な関節組織を再生する技術の確立は容易ではなく,いまだ検討すべき多くの問題が残されている.そこで,本研究では,上層が軟骨で下層が海綿骨となる層状組織を構築するための組織工学技術の基礎となる知見を得ることを目的とした.具体的には,軟骨層は,コラーゲンゲルとスポンジを複合化した足場材料に間葉系幹細胞(hMSC)を播種し軟骨細胞へと分化させることで作製することを試みた.一方,海綿骨層は,ハイドロキシアパタイトの焼結多孔質体にコラーゲンスポンジを導入した2相多孔質構造足場材料にhMSCを播種し骨芽細胞へと分化させることで作製することを行った. 軟骨様組織については,前年度までに確立した組み合わせ培養法を応用して組織構築を行った.しかし,組織表面において線維芽細胞に脱分化する問題が生じ,それを解決するためにコラーゲンゲルで表層を覆うゲルラッピング法を開発した.この方法により脱分化は抑えられ足場材料全体にわたってhMSCは順調に軟骨細胞への分化することが確認された. 海綿骨組織については,ハイドロキシアパタイトの焼成多孔体を作製後コラーゲンやキトサン等のポリマー相,さらにはポリマー相にHA粒子を分散させた複合材料を作製した.hMSCを播種し培養した後の圧縮力学特性を測定したところ,細胞の影響により弾性率は上昇する傾向にあった.また,細胞数は順調に増加しており,特にポリマーコーティングよりも2相構造の方が細胞増殖能に優れていた.また,3種類の空隙率の多孔体を比較したところ,より空隙率が高い方がALP活性に優れている一方,I型コラーゲンの発現量は空隙率が低い方が優れていることが明らかになった.
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