研究課題
H27年度の実績概要として以下の2点があげられる。1点目は、好アルカリ菌(以下、TA2.A1)由来のATP合成酵素のF1部(以下、TA2. F1)の一分子回転計測である。F1部はATP合成反応における触媒部位を持つため、その基本特性の詳細な解析(速度論的パラメーターや回転トルク等)は重要な意味を持つ。まず、一分子回転計測で使用する変異体の最適化を行った。次に、顕微鏡下で200 nmのビーズを用いた回転計測からTA2. F1のATP加水分解反応における詳細な基本特性の解析を行った。最大回転速度が約10Hz、Kmが数uM、ATP結合速度が106 uM/sである事がわかり、低濃度ATP領域ではATP結合待ちによる回転運動の停止が3点観察され、TA2. F1は他生物由来と比較して大きい回転トルク(53 pN nm)を発生する事がわかった。また、低負荷プローブを用いた回転運動の高速イメージングを行ったところ、反応素過程に応じた回転運動を観察することに成功した。これにより、TA2 F1の回転運動スキームを決定した。これらの結果は原著論文として投稿準備中である。2点目は、ATP合成酵素にH+駆動力を提供するcytochrme bo3複合体の生化学機能評価である。cytochrme bo3を再構成した人工膜小胞を用いて、cytochrme bo3の持つユビキノンの酸化活性に共役したH+輸送活性を評価できる電気計測系を開発した。今後、当研究室が開発した一分子膜輸送体の輸送活性高感度検出系(脂質膜チャンバー)を用い、一分子cytochrme bo3のH+輸送計測を計画している。
2: おおむね順調に進展している
今年度はTA2. F1の回転運動の詳細な解析とcytochrme bo3のH+輸送活性計測系の確立を目指した。1:好アルカリ菌由来ATP合成酵素のF1部の調製と評価一分子回転計測からTA2. F1は他生物種由来と同様の120°ステップ刻みの回転運動を行う事がわかった。一方で、そのATP加水分解により発生する回転トルクは他生物種由来より大きい53 pN nmである事が判明した。これは、生理条件下で1つのATPの合成により大きなエネルギーを必要とする事を示唆する。他生物種由来ATP合成酵素のFo部のH+結合部位は10個であるのに対し、TA2.A1由来ATP合成酵素は13個のH+結合部位を持つ。つまり、TA2.A1由来ATP合成酵素は1つのATP合成を行うにあたりより多くの高エネルギー状態にあるH+を消費すると考えられている。これを考慮すると、ATP加水分解により発生する大きい回転トルクは妥当な実験結果であり、非常に興味深い。今後は、ATP合成酵素複合体の回転運動計測から詳細な解析を行っていく。2:大腸菌由来cytochrome bo3複合体の活性評価本課題の最終目的はcytochrome bo3からATP合成酵素へのH+輸送経路の解明である。これまでに、cytochrome bo3の発現、精製、活性評価系を構築してきた。今後、cytochrome bo3活性のATP合成酵素の機能に対する影響を生化学的に定量評価していく必要がある。
H27年度は好熱好アルカリ菌由来ATP合成酵素のF1部分の一分子回転計測に成功し、その回転運動の詳細な解析を行ってきた。これを受け、H28年度は以下の2点を主に実施する予定である。1: 好アルカリバクテリア由来ATP合成酵素複合体の一分子回転運動計測。これまでにF1部に焦点を当てた研究を行ってきた。今後は、ATP合成酵素複合体の回転運動解析を行う。2: 脂質膜チャンバーを用いたcytochrome bo3複合体の活性評価脂質膜チャンバーを用い、一分子cytochrome bo3複合体のH+輸送活性計測を試みる。その後、cytochrome bo3複合体とATP合成酵素複合体を脂質膜チャンバーへ同時に再構成し、「H+の受け渡し経路」をそれらの活性の脂質依存性などから評価していく。
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