研究実績の概要 |
本研究は、副作用が少なく効果的な薬剤と免疫賦活剤を併用し、治療と予防を同時に可能にするピロプラズマ症に対する新規の制圧戦略の構築を目的としている。そこで、最初に、培養原虫を用いて新たなピロプラズマに対する薬剤候補とアリシンの併用効果について検討を行なった。既にバベシアに対する増殖抑制効果が報告されているヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のアピシジンと免疫賦活剤のアリシンを併用して培養原虫に添加した結果、単独で添加した場合より高い増殖抑制効果が得られた。次に、より多数の副作用が少なく効果的な薬剤の探索を目的として、ヒートショック蛋白質90阻害剤である17-DMAG、植物アルカロイドであるセファランチンの培養バベシア原虫に対する増殖抑制効果についてSYBR green を用いた薬剤評価系を用いて検討を行なった。その結果、17-DMAGのB. bovis, B. bigemina, B. caballi 及びT. equiに対するIC50 は、それぞれ125,69,104,413 nMであった。また、セファランチンのB. bovis, B. bigemina, B. caballi 及びT. equiに対するIC50 は、それぞれ271,250,281,204 nMであった。これらの値は、現在抗バベシア剤として使用されているジミナゼンと同等の増殖抑制濃度である。そこで、マウス感染実験モデルを用いて17-DMAGの治療効果の検討を行なった。B. microti をマウスに感染後3日より4日間、17-DMAGを30mg/kg体重の用量を感染マウスに投与した結果、非投与群に比較して低い原虫寄生率が認められた。また、貧血の度合いも極めて軽微であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に基づき、培養原虫(Babesia bovis, B. bigemina, B. caballi, Theileria equi)を用い、新たなピロプラズマに対する薬剤候補であるアピシジンと17-DMAGの増殖抑制効果を検討した結果、現在使用されている抗バベシア剤であるジミナゼンと同等の増殖抑制効果を示す事が明らかとなった。特に、B. microtiを用いたマウス感染モデルを用いた治療実験において、17-DMAGは現在市販されているジミナゼン製剤より優れた治療効果を示した。また、既にバベシアに対する増殖抑制効果が報告されているアピシジンと免疫賦活剤のアリシンの併用により、4種類の培養原虫に対して、単独添加よりも高い増殖抑制効果が認められた。この結果は、副作用が少なく効果的な薬剤と免疫賦活剤を併用し、治療と予防を同時に可能にするピロプラズマ症に対する新規の制圧戦略の構築を更に推進するための基礎的なデータを更に補強し、今後アリシンと他の薬剤との併用を更に検討する価値のある事を示唆している。よって、概ね順調に進んでいると考える。
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