本研究では、農林業害虫の天敵寄生蜂を多数含むBraconinae亜科コマユバチについて、日本産属種の分類学的検討を行うと同時に、全世界の主要属間の系統関係を解析して、寄主選択の進化過程を解明することを目的とした。 日本列島から新たに3属のBraconinae亜科寄生蜂を見出した。他の新記録属を含めた全22属を同定するための検索表を作成して投稿準備中である。これによって、日本列島およびその周辺地域の本亜科の属レベルの正確な同定が可能になった。種レベルの検討の結果、とくにBracon属に既知の24種を超える遥かに多くの種が含まれることが判明した。また、農業・貯蔵害虫の世界的に重要な天敵資材とされているHabrobracon hebetorが少なくとも2種の生物学的種からなる複合種であることを、形態形質の精査と遺伝子データの解析によって明らかにした。これについては、9月にフロリダで開催される第25回国際昆虫学会議ICE2016において発表予定である。 Braconinae亜科の188属のうち、およそ半数を世界各地から収集し、形態形質の状態マトリックスを作成した。また、DNAが抽出可能なサンプルについてミトコンドリアCOIおよび核r28Sの塩基配列を解読した。一部解読が残ったものについては、現在、受入れ研究者が解読を進めている。全データを含めて系統関係を解析して、国際専門誌に投稿すべく準備を行った。 本亜科は外部寄生性の殺傷寄生者なので、長期間を宿主の体内で過ごす内部寄生性の飼い殺し寄生者に較べると宿主選択幅が広いとされてきた。しかし、実際に宿主範囲を整理してみると、属・亜属および種レベルで特異な宿主を利用しているものが多いことが分かってきた。これを系統解析の結果と合わせて宿主選択の進化過程の解析を行った。
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