すい臓がんは予後が非常に悪い難治がんであり、進行するまで自覚症状が無く、早期発見が困難であることが指摘されている。現状では増殖性の細胞に有効な含フッ素ヌクレオシドのゲムシタビンなどがすい臓がんに対する標準的な治療薬として使用されている。しかしながらこれら抗がん剤は延命効果がみられるものの、多くの患者は薬剤耐性がんの再発により死亡し、5年および10年生存率も多くのがんの中で非常に低いことが報告されている。一方、最近がんの再発には抗がん剤耐性のがん幹細胞の関与が示唆されており、がん幹細胞を標的とした治療の必要性が指摘されている。我々は、がん幹細胞を抑制する化合物を探索するため、分化促進作用を有する化合物を中心にスクリーニングした。一般的に、浮遊培養条件下における足場非依存的な増殖はin vitro培養条件下においてがん幹細胞の存在の指標となるが、同定した化合物を培地に添加すると浮遊細胞塊の形成が抑制されることから、すい臓がん幹細胞の自己複製能を抑制しうる可能性が示唆された。さらに、本化合物を処理したすい臓がん細胞塊ではCD133、ALDH1等のがん幹細胞マーカーとして知られる表面マーカーの発現も減少するなど、がん幹細胞への効果が確認された。次に、すい臓がん細胞株を用いた担癌モデルマウスでポンプで本化合物を連続投与してin vivoにおける腫瘍抑制効果を解析した。その結果、本薬剤投与で腫瘍の増殖が顕著に抑制されることが観察された。興味深いことに、ヘマトキシリン・エオシン染色した病理切片の所見から、本化合物投与により、腫瘍の組織型が分化型に変化する傾向が観察された。現在複数のすい臓がん細胞株を用いて、この化合物の抗腫瘍活性を担癌マウスを用いて検証を行っており、さらにゲムシタビンとの併用についても検証を行うことで、同定化合物の延命効果とその有効性を確認する作業を進めている。
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