研究課題/領域番号 |
14F04411
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古田 巧 京都大学, 化学研究所, 准教授 (30336656)
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研究分担者 |
YELLA RAMESH 京都大学, 化学研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 不斉非対称化 / アニリン性アミノ基 / プロスタサイクリン / 酸塩基触媒 / 軸性不斉 |
研究実績の概要 |
反応性が類似する基質や官能基を識別し、直接的に化学変換する反応は、現代有機化学が最も不得手とする課題の一つである。本研究では、この課題への取り組みとして、分子内に立体、電子環境ともほとんど差がない2つのアルデヒド基を持つ擬対称脂肪族1,6-ジアールの直接的な不斉交差アルドール反応を検討している。また今年度は、メソ型脂肪族1,6-ジアールの不斉非対称化にも取り組み、良好な結果を得た。 まず分子内にラクトン環を持つ擬対称1,6-ジアールの分子内不斉交差アルドール反応では、前年度までに、おだやかな反応性を持つアニリン型軸性不斉酸-塩基触媒を作用させると、分子内アルドール反応と続く脱水反応が進行し、2環性の共役アルデヒドが得られることを明らかにしていた。そこで、今年度は、本反応の位置選択性を高めるべく、触媒構造のチューニングを行った。 一方、メソ型脂肪族1,6-ジアールの不斉非対称化では、アニリン型軸性不斉酸-塩基触媒を用いると、高い立体選択性で5員環構造を持つアルドール生成物が得られることがわかった。本反応では、低温条件ではアルドール付加体が、室温まで昇温させることで脱水体が得られることが判明し、反応機構の解明に向けた手がかりを得ることができた。特に、アルドール付加体については、生じた3種類のジアステレオマーの相対立体配置を完全に決定し、それらの光学純度も明らかにすることで、アルドール付加体が脱水する過程で、速度論的分割が起きていることも明らかにした。また、本不斉非対称化反応で得られる生成物は、イロプロストなどのプロスタサイクリン関連医薬品の中間体として有用で、これらの生理活性化合物への誘導も検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
擬対称脂肪族1,6-ジアールの分子内不斉交差アルドール反応に関しては、構造を種々チューニングした多様な触媒を合成することができた。この触媒ライブラリーを用いて現在反応を検討している。一方、メソ型脂肪族1,6-ジアールの不斉非対称化反応については、高い立体選択性でキラルなシクロペンタンが得られることを明らかにした。とりわけ、反応温度と反応溶媒を適切に選択することで、アルドール付加体と脱水体の作り分けができることを明らかにした。このアルドール付加体については、3種類のジアステレオマーとして得られることが判明し、それらの相対立体配置を NMR 実験、および X 線結晶構造解析から明らかにした。この知見は、本反応の反応機構の解明に手がかりを与えるもので、今後計画している理論計算などの実験的な裏付けとなるものである。擬対称ジアールに関する研究は大きく進展したとは言いがたいものの、以上を総合すると、研究はおおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
触媒のスクリーニングを含めた種々の条件検討により、擬対称脂肪族1,6-ジアールの分子内アルドール反応の位置選択性を高める。メソ型脂肪族1,6-ジアールの不斉非対称化反応については、現在最大の問題点となっているアルドール付加体の複数のジアステレオマーの生成を制御すべく検討する(ジアステレオ選択性の向上)。この際も触媒のスクリーニングを中心とした検討を計画している。また、本反応については、理論計算を含めた反応機構解析にも注力し、その立体選択性の発現機構を解明する。さらに、本反応で得られたアルドール生成物を、イロプロストなどのプロスタサイクリン関連医薬品へと誘導する検討も行う。
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