研究実績の概要 |
本年度は昨年度の検討を継続し、メソ型脂肪族1,6-ジアールの不斉非対称化を精査した。特に種々の基質に対する不斉非対称化の適用、アニリン型酸塩基触媒のスクリーニング、反応の立体選択性の評価に取り組んだ。 基質として種々の置換基を有するメソ型脂肪族 1,6-ジアールを用い、触媒のスクリーニング、溶媒の検討を行った。その結果、トリフリックアミド基を持つ触媒が、エナンチオトピックなホルミル基を良く識別し、THF 中 20 °C で脱水を伴う不斉非対称化が進行し、キラルなシクロペンテン誘導体が高収率、高エナンチオ選択的に得られることを明らかにした。エステル (-COOR) 基、アルキル (-CH2R) 基、酸素官能基 (-OR, -OCOR) を持つ種々の基質で高いエナンチオ選択性が発現した。 一方、上記のように、20 °C での反応では脱水まで反応が進行しシクロペンテン誘導体が得られるが、0 °C の反応ではアルドール付加体が得られることを明らかにした。すなわち、THF 中 0 °C で反応を行うと、四連続不斉中心を持つ四置換シクロペンタンの3種類のジアステレオマー syn-anti-syn-体, syn-anti-anti-体, syn-syn-anti-体が良好な総収率で得られることがわかった。ビナフチル型のトリフリックアミド基を持つ触媒では、これらのジアステレオ比はさほど高くはないが、ビフェニル型の触媒では syn-anti-syn-体が主生成物になることを明らかにした。一方、不斉アルドール反応などの有機分子触媒として汎用されている L-プロリンでは、いずれのジアステレオマーでもエナンチオ選択性は発現しないか低いことがわかった。以上のように、アニリン型酸塩基触媒がメソ型脂肪族ジアールのエナンチオトピックなホルミル基を高度に不斉識別することを明らかにし、医薬品など生物活性物質の有用な中間体となるキラルな多置換シクロペンタンおよびシクロペンテンの、分子内アルドール反応に基づく触媒的不斉合成を達成した。
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