研究実績の概要 |
赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は運動性に富み、ヒトにアメーバ症を起こす寄生性原虫である。運動や飲作用に重要なアクチン細胞骨格について細胞膜のリン脂質の一種であるホスホイノシタイド(phosphoinositieds: PPIs)による制御が知られる。本研究では赤痢アメーバPPIsによるアクチン骨格制御について、phosphatidylinositol 3,4,5-trisphosphate (PIP3)エフェクター分子の同定と機能解析から明らかにした。PIP3結合ビーズへのアフィニティーから同定した153の赤痢アメーバPIP3結合タンパク質候補より6種類について赤痢アメーバでの発現、機能解析を行った。全ての分子はPI3Pへの結合が確認された。ここに含まれる2種類のACGファミリーのキナーゼはピノサイトーシス、赤血球の貪食、トロゴサイトーシス様の過程に関与した。さらにこれらのPHドメインのみを高発現させたところ、ひとつについて飲作用、赤血球の貪食を阻害した。ライブイメージング解析からこれはPHドメインがPIP3に強固に結合し、脱リン酸化による別のPPIへの変化が阻害されたことによると考えられた。また、もう一つのACGキナーゼは生きたCHO細胞の貪食時にトンネル様構造に局在することがライブイメージングから示された。しかしCHO死細胞や赤血球の貪食ではこのような局在は見られなかった。これは赤痢アメーバがリガンドの性質により特異的な飲作用過程を活性化する初めての知見であった。 本研究は赤痢アメーバ生物学において、多様なPPIのエフェクターやそれらの機能を解析する新しい研究領域を開いた。赤痢アメーバの病原性や病理はアクチン細胞骨格とPPIに制御される運動能と貪食能に依存している。本研究の成果は多様なリガンドや病原性に対する運動や飲作用における分子機構の理解につながることが期待される。
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