研究課題
近年、細胞外に放出されたHMGB1分子は、敗血症など様々な炎症性疾患の病態の増悪に関与すると考えられており、我々は、作製したHMGB1コンディショナルノックアウトマウス(Hmgb1 cKO)を用いて、炎症性疾患におけるHMGB1の役割を明らかにすることを目的とし、解析を進めている。これまでの解析から、タモキシフェン誘導性の全身性Hmgb1 cKOを用いて、LPS誘導性敗血症ショックを行ったところ、野生型マウスと比較し、Hmgb1 cKOでは血中のHMGB1レベルが有意に抑制されると同時に、致死性ショックに抵抗性を示すという予備知見を得た。しかしながら、Hmgb1 cKOマウスでは炎症性サイトカインやケモカインの産生量には異常は見られなかった。一方、Hmgb1 cKOマウスにおいて、好中球を代表とする白血球細胞の各組織への早期遊走に異常があることが分かり、HMGB1は好中球などの炎症性細胞の遊走・浸潤を促進する機能があることが示唆された。Hmgb1 cKOマウスにおける好中球細胞の炎症部位への集積が少ないという異常は、HMGB1を欠失させたことによる好中球細胞自体の異常であることが考えられた。そこで、野生型とHmgb1 cKOマウスの好中球細胞を骨髄から収穫し、好中球遊走に関わる遺伝子発現と細胞遊走能の検討を行った。Hmgb1 cKO由来の好中球細胞を調べたところ、HMGB1の発現量は有意に抑制されていることを確認した。しかしながら、Hmgb1 cKO由来の好中球細胞では、好中球細胞特異的マーカー及び細胞遊走に関わるケモカイン受容体遺伝子の発現に異常は見られなかった。さらに、様々なケモカイン分子に対する細胞遊走能も正常であることが確認された。HMGB1がどのように好中球の遊走に関与しているのか、現在その詳細を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
近年、自然免疫応答において、また炎症が関与する病態において、重要な役割を果たすことが示唆されているHMGB(High-mobility group box)ファミリーだが、特に細胞外に放出されたHMGB1は、様々な炎症性疾患の病態の増悪に関与すると考えられており、実際、抗HMGB1中和抗体はこれらの病態を顕著に抑制できることが報告されている。従って、細胞外に放出されたHMGB1の炎症における役割について詳細を明らかにすることは、これらの炎症病態を抑制する分子基盤を確立することに重要であると考えられる。しかしながら、Hmgb1遺伝子欠損マウスが生後致死性を示すため、個体レベルでの、さらには炎症性疾患における役割については解析が為されていない。そこで、我々の研究室において、Hmgb1コンディショナルノックアウトマウス(Hmgb1 cKO)が作製された。我々は独自に作製したHmgb1 cKOを用いて、マウス炎症性疾患モデルにおけるHMGB1の役割を明らかにすることを目的とした。我々はタモキシフェン誘導性の全身性Hmgb1 cKOを用いて、LPS誘導性敗血症ショックを行ったところ、野生型マウスと比較し、Hmgb1 cKOは致死性ショックへ抵抗性を示すことを見出した。さらに、HMGB1は好中球などの炎症性細胞の遊走・浸潤を促進する機能があることが示唆された。現在、HMGB1と好中球の遊走との関係について解析を進めている。これまで、実験進行に必要である遺伝子改変マウスが十分に確保でき、また、実験試料に支障がなく、当初の計画通りの実験を遂行している。これらのことから、本研究は順調に進展しているものと考えられる。
細胞外HMGB1の好中球等の白血球細胞遊走・浸潤における機能について引き続き検討を行う。今までの結果から、HMGB1は好中球に直接機能するのではなく、間接的に作用していることが考えられる。今後、HMGB1の作用について、受容体の同定を含め、マイクロアレイ解析、分子生物学的手法、種々の遺伝子欠損マウスを用いて明らかにする。一方、細胞外HMGB1は様々ながんの発生及び転移に深く関わることが報告されている。これまでHmgb1 cKOを用いた結果から、HMGB1は炎症を促進する機能が示唆され、今後マウスがん発症、転移モデルを用いて、それらにおけるHMGB1の役割を検討する予定である。今年度の研究経費に関して、同じく欠損マウスを用いた検討が必須なため、マウスの飼育費用および解析費用が必要となる。また、消耗品に関しては、細胞培養用の血清、培地および試薬をはじめ、DNA 及びRNA精製試薬、RT-PCR 用酵素・試薬、抗体などが不可欠となる。さらに、HMGB1分子機能の解析のため、マイクロアレイ解析費用を消耗品費として計上している。
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http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/~mol-immu/index.html