研究課題
量子井戸太陽電池において,フォトルミネッセンスの強度から量子井戸における光励起キャリアに起因する擬フェルミレベルの分裂幅を定量化するための光学系を構築し,実際に種々のGaAsバルク太陽電池および量子井戸太陽電池について擬フェルミレベルの分裂幅を測定することに成功した.擬フェルミレベルの分裂幅を絶対定量するためには,フォトルミネッセンスで放射される光子フラックスを定量化する必要がある.今回は,内部抵抗が小さい量子井戸太陽電池からの電流注入発光におけるフォトルミネッセンス強度と端子間電圧の相関を用いて,擬フェルミレベルの分裂幅を絶対定量した.上記技術を用いて,種々の構造を有する量子井戸太陽電池について,光照射下で量子井戸からのフォトルミネッセンス強度と端子間電圧(開放電圧)を同時測定し,量子井戸における擬フェルミレベルの分裂幅と開放電圧の相互関係を検討した.その結果,ほとんどの構造の太陽電池において,量子井戸における擬フェルミレベルの分裂幅が開放電圧よりも大きく,これは量子井戸内の光励起キャリアと周辺のp・n層におけるキャリアがほぼ熱平衡にあることを示唆するものであった.すなわち,中間バンド太陽電池としての動作を示唆する結果は得られなかった.しかし,p・n層をGaAsからよりワイドギャップのInGaPに変更したサンプルに関しては,量子井戸における擬フェルミレベルの分裂幅に比べて開放電圧が90 meVと小さいながらも有意な値で増大する結果が得られた.これは中間バンド動作に特徴的な現象である.今回は,実験系の都合から1倍集光と16倍集光相当の光照射強度での測定にとどまっている.しかしながら,p・n層をGaAsの場合とInGaPの場合では明らかに異なる結果が得られており,今後広範な光照射条件のもとで量子井戸における擬フェルミレベルの分裂幅と開放電圧の比較を行うことで,より明確に現象を解析できると考えている.
2: おおむね順調に進展している
当初計画にしたがって,量子井戸太陽電池における中間バンド動作を解析・実証するための実験系を構築でき,中間バンド動作を示唆するデータを得ている.
今後広範な光照射条件のもとで量子井戸における擬フェルミレベルの分裂幅と開放電圧の比較を行うことで,より明確に現象を解析できると考えている.また,量子井戸および周辺のp・n層の構造を工夫することで,擬フェルミレベルの分裂幅から開放電圧への増大幅を拡大することを目指す.
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