研究課題/領域番号 |
14F04754
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
坂本 二郎 金沢大学, 機械工学系, 教授 (20205769)
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研究分担者 |
XU Wei 金沢大学, 機械工学系, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 計算力学 / 衝撃工学 / 破壊力学 / 材料力学 / 個別要素法 / 有限要素法 / バイオメカニクス / 骨折 |
研究実績の概要 |
頭部傷害は,歩行者・自動車衝突において力学解析が必要とされる最も重要な問題の一つである.医療画像から詳細な頭部解析モデルを構築し,有限要素法で力学解析を行う技術が普及しつつあるが,これらの多くは衝突時におけるフロントガラスの破壊前までの現象が対象で,フロントガラスの破壊や頭骨骨折を伴う解析は極めて少ない.本研究では,個別要素法と有限要素法による混合法(CDFP)の計算効率を高め,車体の破壊や骨折を伴う現実的な歩行者衝突の問題に適用してその有効性を検証することを目的としている. 有限要素法(FEM)は,連続体力学における最も信頼性の高い解析法であるが,多くの亀裂や分裂を伴う破壊現象においてはその連続性が失われるため,精度良い解析を行うのは極めて困難である.一方,個別要素法(DEM)は連続体を小さな粒子の集合として扱うため,亀裂や分裂を伴う破壊現象に対しても高精度の解析が可能であるが,実スケールの解析では非常に多くの要素が必要となり計算時間が膨大となる.研究分担者は,破壊が生じていない部分は有限要素法で解析し,破壊部周辺のみを個別要素法で解析するといった混合法(CDFP)を提案し,この手法をガラスの破壊解析等に応用して,破壊現象が精度良く効率的に解けることを明らかにしている.平成26年度の研究においては,個別要素法と有限要素法からなる混合法プログラム(CDFP)を,三次元問題で一般的に用いられることの多い六面体要素にも適用可能なように理論の拡張を行った.さらに,開発したプログラムを,ワークステーションにインストールし,DE/FE混合法による破壊解析が可能な計算環境を構築した.以上の開発により,頭蓋骨のような複雑な構造の三次元問題に対しても混合法プログラムが適用可能になり,頭蓋骨のモデルさえ得られれば,大規模な破壊を伴う頭骨骨折の解析を行うことが可能になった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,平成26年度中は,下記の研究を実施することとしていた. ①研究分担者が開発した個別要素法と有限要素法からなる混合法プログラム(以下ではCDFPと略記)を,一般的に用いられることの多い四面体要素にも適用可能なように理論の拡張を試みる. ②計算効率を飛躍的に高めるため,CDFPをGPUを用いた並列計算プログラムとして開発する. ③開発したプログラムを,ワークステーションにインストールし,DE/FE混合法による破壊解析が可能な計算環境を構築する. このための予算には,設備備品費として③の計算に必要なワークステーション,消耗品費として②の計算に必要なグラフィックボードを計上していた. ①については,三次元構造を離散化するのに最も汎用性の高い四面体要素の開発までには至らなかったが,離散化に必要な六面体要素の開発は完了し,三次元構造の解析が可能な状況まで開発が進んだ.②については,並列計算プログラムの実行に必要なグラフィックボードに要する費用が当初の見込みよりも多く,平成26年度の購入を見合わせたために,プログラムの開発に着手はしているものの,その実装には至っていない.③については,ワークステーションを新たに導入し,FORTRANによる開発環境を整えた上で,①の三次元構造の解析に必要なプログラム開発を行い,DE/FE混合法による破壊解析が可能な計算環境構築を完了した.単純な平板や合わせガラスの破壊の問題に対して解析を行い,計算環境の有効性についても確認している.今後,頭蓋骨の三次元形態データが入手でき,それに基づいて三次元構造のモデルが構築できれば,大規模な破壊を伴う頭骨骨折の解析を行うことも十分可能である.また,①の研究で得られた成果については,学術論文に投稿中であり,国際会議での学会発表も予定している.以上のことから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,下記のように研究を実行する. ①計算効率を飛躍的に高めるため,CDFPをGPUを用いた並列計算プログラムとして開発する. ②骨強度解析ソフトウェアを利用して,断層画像から頭部の有限要素モデルの作成を行う. ③上記のソフトウェアで作成された有限要素モデルのデーターを,独自に開発したDE/FE混合法のプログラムに入力できるようなインターフェイスプログラムを作成する. ①は平成26年度での実施を計画していた研究項目であったが,予算の関係でGPU(グラフィックボード)の購入を見合わせていたために,プログラムの開発には着手していたものの実装ができなかった.平成27年度はこれを購入し,CDFPの並列プログラムを実装する.また,平成26年度は三次元構造を離散化するのに有効な四面体要素の開発が完了していなかったが,これについても引き続き開発を継続する.以上のプログラムを開発した後,その有効性を確認するために,単純形状物体を対象とした破壊解析を行い,その精度と計算効率を検証する.②については,本研究室が所有している骨強度解析ソフトウェア(RCCM製,Mechanical Finder)を利用して頭部の断層画像から頭蓋骨の有限要素モデルを作成する.断層画像としてはCT画像を用いるのが一般的であるが,ここではデータの出所が明確で他の研究とも比較を可能とするため,米国立医学図書館の人体解剖データベース Visible Human Project の男性の断層画像を用いる予定である.また,比較対照のために,衝突安全解析用に作成された市販の人体有限要素モデル(TTDC製,THUMS)の使用についても検討する.これらのデータを③で開発したプログラムで変換し,DE/FE混合法のプログラムに入力することで,大規模な破壊を伴う頭骨骨折の衝撃解析を行う準備を完了する.
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