本研究は、ウマ慢性変性子宮内膜炎の発病機序の解明を目的としている。慢性変性子宮内膜炎は、他の器官における線維症に類似しており、この線維症の原因はコラーゲンの沈着であると考えられている。transforming growth factor (TGF)-β1にはコラーゲン沈着作用のあることが報告されていることから、本研究では TGF-β1 の異常分泌が慢性変性子宮内膜炎発病のトリガーとなっていると仮説を立て、研究を遂行した。慢性変性子宮内膜炎に感染したウマ子宮を変性の程度に基づいて4グループにわけたところ、変性が進行するにつれて筋繊維芽細胞数が増加することが明らかとなった。また筋繊維芽細胞のマーカーであるα-smooth muscle actin (α-SMA) 発現は transforming growth factor (TGF)-β1 によって刺激されることが in vitro における子宮内膜組織片の培養によって明らかとなった。正常なウマ子宮内膜より上皮細胞ならびに繊維芽細胞を単離し、TGF-β1 を添加したところ、繊維芽細胞からは筋繊維芽細胞が生じるものの、上皮細胞から筋繊維芽細胞が生じることは無かったことから、慢性変性子宮内膜炎は主に繊維芽細胞から筋繊維芽細胞への分化によるものであることが推定された。これらの結果より、ウマ子宮内膜繊維芽細胞から筋繊維芽細胞への分化を何らかの方法で抑制することが、慢性変性子宮内膜炎の予防法として有効であることが示唆された。
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