研究概要 |
光学活性ジホスフィンと1,2-ジアミンをともに配位子とする一連の塩化ルテニウム(II)錯体は,2-プロパノール中,塩基の存在下,様々な単純ケトン類の不斉水素化反応において極めて高い活性と立体選択性を示す。平成18年度は、RuCl_2(diphosphine)(pica)やRuH(h^1-BH_4)(diphosphine)(pica)がt-アルキルケトン類の不斉水素化に有効であることを発見した(pica=α-picolylamine)。これまでかさ高いケトン類の不斉還元におけるアルコール生成物の鏡像体過剰率は不十分であったが、この問題を解決する新しい手法を提供できたといえる。さらに、η^6-arene/N-tosylethelenediamine-Ru錯体が、水素移動型還元のみならず水素化反応、にも有効な触媒前駆体であることを明らかにした。この手法により、非塩基性と酸性、いずれの条件下においても、ケトン類の高効率かっ高選択的な不斉水素化が可能となった。得られた結果は、基質適用範囲を大幅に拡大するとともに、ケトン基質の水素化遷移状態における金属-配位子二官能性機構を改めて支持した。 核酸や糖医薬,および液晶材料等の合成において有用な原料となり得るβ-ヒドロキシニトロアルカン化合物やβ-アミノニトロアルカン化合物、およびβ-ヒドロキシカルボニル化合物を,金属を含有しない環境調和型触媒存在下効率よく合成することにも成功した。特に、分子構造が精密に制御された酸あるいは塩基を意味する「形ある酸」および「形ある塩基」触媒を開発した。これら分子触媒を用いることで、水溶液中での高活性・高選択的化学変換に新局面をもたらした。 さらに、独自に設計・開発したロジウム錯体が、芳香環やヘテロ芳香環の炭素-水素結合を直接アリール化する優れた触媒となることも見出した。本反応はチオフェン、ビチオフェン、フラン、ピロール、インドールなどのヘテロ芳香族化合物のみならず、ベンゼン誘導体でも進行することが明らかとなった。反応機構をより詳細に理論的に解明し、今後の触媒設計指針に重要な知見を提供した。
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