研究概要 |
研究成果(1):哺乳類のmtDNAの組換えはほとんど生じない 哺乳類のmtDNAは完全な母性遺伝をするため、異なった個体間のmtDNAが子孫の体の中で共存することはない。このためmtDNAの組換えの必然性だけでなくそれを検出する機会も失われている。このため哺乳類のmtDNAに組換が起こるかどうかは、哺乳類ミトコンドリア遺伝学の極めて基本的で重要な未解決の課題であるにもかかわらず、これまで間接的なデータだけで議論され、真の解決には至っていなかった。われわれはmtDNA突然変異導入モデルマウス(ミトマウス)だけでなく、ヒトの培養細胞を細胞融合することで強制的に異なった個体由来のmtDNAを同一細胞内に共存させることでこの問題きちんと解決し、長年の議論に決着を着けることができた。すなわち、ヒト培養細胞とミトマウスに共存させた塩基配列の異なる2種類のmtDNAsをPCRを使わずに精製し、クローニングの後塩基配列を決定したところ、ヒト培養細胞では全く組換体が検出されず、ミトマウスでのみ低頻度で組換体を検出した。これは従来のPCRを使った結果と矛盾するが、これはPCRを使って増幅した後塩基配列を決めると、PCR jumpingによって一見組換体のようなアーティファクトが生じるためであると言う結論を得た。 これらの成果は、PNASから高く評価され、現在印刷中である(PNAS 2005,in press)。 研究成果(2):mtDNA突然変異マウスにおける新たな病態の発見 病原性欠失突然変異型mtDNAを持つヒトミトコンドリア病モデルマウスであるミトマウスにおいて、新たな病体である難聴症状を確認した。しかし、ヒトミトコンドリア病において難聴と併発することが報告されている糖尿病の症状をこのミトマウスは示しておらず、むしろ低血糖を示していた。この観察結果は病原性欠失突然変異型mtDNAによる酸化的リン酸化の機能不全を補うために、解糖系によるエネルギー産生を促進させていることによるものと考えられる(BBRC 323:175-184,2004)。
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