1)Tbx遺伝子による肢芽誘導 Tbx5、Tbx4遺伝子はそれぞれ上肢、下肢のidentityを決定しているが、その後の研究により肢芽形成のinitiatorそのものであることがわかった。Dominant negatibve型のTbx遺伝子を強制発現させると肢芽が完全に消失し、Tbx5、Tbx4遺伝子を体幹部に発現させるとそれぞれ上肢と下肢が誘導された。このとき、これまで肢芽の形成に重要であると言われてきたWnt、Fgf遺伝子群が発現誘導されることから、肢芽形成の最も初期に働く遺伝子あると結論できる。 2)Tbx2、Tbx3遺伝子による指の形成 Tbx2、Tbx3遺伝子は指の形成時にニワトリ脚のdigit IV、IIIに発現する。Tbx2の強制発現はdigit IIIをIVに、Tbx3強制発現はdigit IIをIIIに形態転換させる。したがって、肢芽前後軸に沿って違った形の指がいかに作られるかを知る上で、きわめて重要な知見を得ることが出来た。 3)Tbx5、Tbx20遺伝子と心臓発生、進化 本年度の研究から、Tbx5が左心室に、Tbx20が右心室に発現していることがわかった。心室中隔は、両遺伝子の発現境界に形成される。このことはTbx5、Tbx20の働きで心室が二分し、心室中隔によって2心房2心室の形態を作り上げて居ることを示している。一方、魚類(ゼブラフィッシュ)ではTbx5、Tbx20遺伝子の発現は明瞭な境界を形成しない。また、ニワトリやマウスで見られる心房における発現も認められなかった。1心房1心室の心臓をもつ魚類と鳥類、哺乳類の心臓形態の発生と進化がどのようにして起こったのかを解明する重要な糸口となった。 4)Irx2遺伝子と小脳発生 Irx遺伝子群は6つの遺伝子から構成されているが、このなかでIrx2がrhombic lipに強く発現していることがわかった。詳細な解析の結果isthmusからのFFG8/MAP kinaseによりIrx2にリン酸化がおこり、転写抑制因子から転写活性化因子に変化することが見いだされた。そして、このリン酸化された転写活性化型Irx2が直接小脳形成を誘導することが明らかとなり、ハエからヒトに普遍的に存在するIrx遺伝子の機能に関して重要な知見を得ることが出来た。
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