Tbx遺伝子の進化、機能 一つの祖先遺伝子から出発して2回の遺伝子重複を経て、4つのTbx遺伝子が生まれた(Tbx2/3/4/5)。この結果、Tbx2/Tbx4、Tbx3/Tbx5遺伝子は直列に配置して、異なる染色体上に位置している。これまでの研究から、この遺伝子の複雑化が四足動物の形態の進化にどのように関わってきたかが推測できるようになり、この4つの遺伝子の機能を進化と言う観点から捉えることが可能となった。Tbx4、Tbx5遺伝子はそれぞれ上肢と下肢の形態を規定している。加えて、肢芽の発生のintiationも制御することが分かり、四肢の発生と強く連関している。また、Tbx5遺伝子は心臓の発生と進化にも関与し、心室の左右非対称な発生を調節し、左心室、右心室の分離と心室中隔の形成に決定的な役割を演じている。一方、Tbx3、Tbx2遺伝子は、手足の前後軸に沿って形成される多様な指の個性を作り上げる時に必須の遺伝子であり、後方の指の形の違いを規定していることが明らかとなった。これまで、Tbx2、Tbx3、Tbx4、Tbx5の4つの遺伝子の機能を発生学的に解析してきたが、このような研究から生み出された知見は、脊椎動物の進化を考える上で貴重な示唆を与えている。進化は、heterotopy、heterochronyによる巧妙な遺伝子の使い方に依存しているが、これをTbx遺伝子を用いることによって、世界で初めて発生学的な知見の集積から説明できたと考える。 神経の発生(小脳の形成とFGF8 organizer シグナル) 後脳前方の背側に形成される小脳の発生分化は、隣接するIsthmusのFGF8によるorganizer活性によって制御される。本研究では、このFGF8の活性が以下どのように細胞内に伝達されるかを詳細に検討した。この結果、転写因子の一つであるIRX2がFGF8/MAP kinaseに直接リン酸化されること、リン酸化によってIrx2蛋白は転写因子としての性格を変え、転写抑制因子から活性化因子に変わること、活性化型のIrx2がFgf8、Pax2の発現を制御することによって小脳を作る位置を決定することが明らかとなり、これまで全く不明であったFGF8のシグナル伝達機構が解明、小脳形成の分子機能の詳細が明確となった。Irx遺伝子はIrx1からIrx6まで存在し、発生の過程で様々な機能を発揮することが予想されるが、本研究では、Irx2に留まらず、多様な器官形成を支配するIrxの役割を考える上で、きわめて重要な知見を得ることができたと考えられる。
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