本年度は、Tbx5遺伝子の転写活性化を司る因子(複数)の発見に成功した。これまでの実験によると、Tbx5が転写活性化因子して機能するためには、この複数の因子が協調性した働くことが重要である。また、この中のひとつは細胞が受けるシグナルの状態によって大きく変化する。このことは、Tbx5の機能がBMP、Wnt、FGF等のシグナル状態によって変化することを意味しており、その発生学的、分子生物学的意義はきわめて大きい。このような生化学的解析に加え、発生生物学的な意味を探るため、マウスでのノックアウト、ゼブラフィッシュでのノックダウン、ニワトリでのgain-of-function的なアプローチを取りながら、多様な生物種で解析を進めることができた。また、神経幹細胞やES細胞などの未分化性に関連する遺伝子にも着目し、新規遺伝子を単離して機能解析を行う準備を整えた。ES細胞などは、Tbx遺伝子を強く発現しており、一見無関係に見えるTbx遺伝子の研究と幹細胞の未分化性の問題が、いくつかの新規遺伝子を接点につながる可能性が出てきたことは、今後の研究分野として大きな領域となった。事実、新規に単離されたTbx5のco-activatorsは神経幹細胞、ES細胞での発現が確認できている。したがって、このような因子は、BMP、Wntなどのシグナルと連関しながら細胞の分化状態に影響していると考えられる。このような生命現象の普遍的な新原理となる事象を見いだすことに成功した意義が大きく、本年度の成果として特筆できる。
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