昨年度は、Tbx5の転写活性化に寄与する複数のco-activator(Tact)の単離に成功した。興味深いことに、Tact-1は細胞質と核をシャトルする蛋白であった。また、Tact-1の細胞内局在は、細胞骨格の状態、non-canonical Wntシグナルの伝達状態によって変化することが明らかとなった。この細胞の状態、Wntシグナルの状態を反映してTact-1にシグナルを送る因子としてTact-4を同定した。Tact-1、Tact-4の両者が存在するとTbx5の転写活性化能は1000倍程度の極めて強力なものとなる。このことは、Tbx5の機能が、細胞外シグナルや細胞の存在様式によって大きく左右されることを意味している。また、Tbx5はTak1/Tab1の経路によってリン酸化され、転写活性化能を失うことも明らかとなった。このことは、BMP、TGFbのシグナルの影響下に有ることを意味し、Tbx5の機能が細胞外のシグナルと緊密に関連していると言える。この実験事実をふまえて、Tact-1との相互作用に必要なTbx5のドメインのみを欠損したマウスを制作中であり、Tact-1、Tact-4のノックアウトマウス、ゼブラフィッシュを用いたノックダウン法によって、詳細な解析を進めている。また、このような知見から、細胞質と核内をシャトルする因子の単離を行ない、複数個同定した。そのうちの一つは、心臓と脊索に極めて強く特徴的な発現を示す。ゼブラフィッシュを用いた遺伝子機能阻害実験では、脊索の短縮を引き起こすConvergent Extensionの異常と心臓形成の異常が認められた。この因子は、Convergent Extensionに伴う細胞形態の変化とそれに伴う細胞への力学的ストレスを受容し、核内に伝達する因子である可能性が出てきた。また、もう一つのシャトル因子の機能阻害実験でも脊索の短縮が認められたが、この因子はnon-canonical Wnt経路で働いていること、non-caonical Wntシグナルを受けてendocytosisを制御し、EphBリセプターの細胞表面からの除去による細胞接着の解除、細胞骨格の再編成を誘導し、細胞の形態、動きをコントロールしていることがあきらかとなった。 以上のように、本年度は、転写因子と細胞骨格、non-canonical Wntシグナルの生理的意義、endocytosisと細胞接着との機能的関係など、新しい研究を展開できた。また、最終年度にむけた大きなテーマの発見ができたと考えている。
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