今年度は、これまで得られていなかったセンニンソウワタムシのゴールの人為的誘導に成功した。得られたゴール世代および開放コロニー世代、計7種類のモルフからRNAを抽出し、cDNAライブラリーを調製し、配列解析を行った。これにより、Colophina属計5種の配列および遺伝子発現データを得ることが出来た。 1次・2次宿主世代についてのデータが得られたColophina属の4種(センニンソウワタムシ・ボタンヅルワタムシ・クサボタンワタムシ・オバケワタムシ)について、遺伝子発現量の比較を行った。まず、それぞれの宿主世代において、兵隊で発現変動する遺伝子(DEG)を統計解析により抽出した結果、Colophina属の4種全てで、1次宿主と2次宿主の兵隊におけるDEGは、ランダムに期待されるよりも有意に高い共通性を示し、両者の発生プログラムに共通の遺伝子セットが関与していることが示唆された。また、興味深いことに、祖先的な兵隊を持つとされるセンニンソウワタムシにおいては、生活環境が全く異なるにもかかわらず、2種類の兵隊の遺伝子発現が高い類似性を示した。この結果は、2種類の兵隊がその起源において、外部形態だけでなく、遺伝子発現においても酷似していたことを示唆している。 次に、4種全てに共通するオルソログ遺伝子を抽出し、遺伝子発現量の種間比較をクラスター解析により行った。全オルソログの発現量を用いた場合は、それぞれの種ごとにクラスターを形成するが、不妊兵隊のDEGのみの発現量を用いた場合は、1次宿主世代・2次宿主世代のモルフごとにクラスターが形成され、2次宿主の不妊兵隊の発現パターンは1次宿主のグループに属することがわかった。上記の結果は、「1次宿主世代の発生プログラムが2次宿主世代で発現することにより不妊兵隊が進化した」という仮説を支持している。
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