皮膚は表皮、真皮、皮下組織から構成されている。さらに表皮は基底層、有棘層、顆粒層、角質層から形成され、基底膜に接する表皮基底細胞が増殖能を有している。本研究では、妊娠期における表皮基底細胞の増殖制御機構の解明を目的として解析を行った。 マウスでは、妊娠12日目から16日目の間に腹囲が急速に増加する。非妊娠マウスと妊娠8日目、12日目、16日目のマウスの背側と腹側で増殖期にある表皮基底細胞の割合を測定した結果、背側では非妊娠、妊娠8日目、12日目、16日目のいずれにおいても増殖期の表皮基底細胞の割合に変化がなかったのに対し、腹側では、腹囲の増加に先立って、妊娠8日目から増殖期の表皮基底細胞の割合が増え始め、妊娠16日目まで増加し続ける現象が観察された。そこで、DNAマイクロアレイおよびqPCRによって非妊娠腹側、妊娠期腹側の表皮基底細胞における遺伝子発現を比較した結果、妊娠8日目から発現が上昇する遺伝子群と妊娠16日目から発現が上昇する遺伝子群の2群に分類されることが分かった。妊娠8日目から発現が上昇する遺伝子の1つに転写因子であるTbx3がある。Tbx3はES細胞において未分化維持に必要であることが知られている。蛍光免疫染色法により非妊娠、妊娠期の表皮基底細胞を染色した結果、妊娠期腹側の表皮基底細胞でTbx3の発現が上昇することを確認した。 これらの結果は、妊娠期における皮膚幹細胞の増殖・分化応答機構を明らかにする上で重要な基盤となる重要な成果であると考えられる。
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