本年度は、昨年に引き続き高次摂動論に基づいた弱い重力レンズ効果に着目し研究を実施した。弱い重力レンズ効果とは、光子が重力によって曲げられる効果の一つである。昨年度の成果として、高次効果によって引き起こされる弱い重力レンズ効果は、現在の観測に近いほど、インフレーションによって生成される原始重力波が引きおこす効果よりも大きくなりうることを示した。 それに基づき、新たな観測対象として21cm線のレンズ効果に着目した。21cm線は宇宙が晴れ上がり中性水素が大量にある状況の中で、その超微細構造に基づいて放射される。その放射は、複数の時期にわたって放射が行われるため、宇宙マイクロ波背景放射と異なり多くの情報をもたらす。この21cm線も観測者に届く手前の重力源によって重力的に曲げられる。私は高次摂動の、特にベクトル型摂動に基づいた21cm線の弱い重力レンズシグナルを数値的に求めた。複数の赤方偏移の観測を想定したノイズスペクトルも導出し、シグナルと比較することで観測可能性を議論した。その結果、原理的に観測が可能であることを示した上で、インフレーションの証拠となりうる原始重力波観測の極めて重大なノイズ源となりうることを示した。 また、弱い重力レンズ効果は高次摂動だけでなくインフレーションや宇宙論的相転移の物理も探ることができる。上述の研究とは独立に、宇宙論的相転移で生成されると考えられている物質の一つにテクスチャと呼ばれる位相欠陥が存在する。この存在を弱い重力レンズ効果で検証することが可能であるかを考えた。私はまずテクスチャーの引きおこす物理について、解析的な手法により理解を与えた。その上で、数値計算を用いて弱い重力レンズ効果を用いた場合の観測可能性を議論した。その結果、将来観測とテクスチャのパラメータの縮退がどのようになっているかを決定することができた。
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