申請者は昨年度、noisy Burgers方程式に駆動されるブラウン粒子の軌道においてレプリカ対称性の破れ(RSB)が生じていることを発見した。本年度は、この現象を非平衡環境中での拡散の一クラスと位置づけ、他の状況においても同様の現象が観察されうるかについて検討を行った。 まず、トラップモデルと呼ばれるガラスダイナミクスのトイモデルにおいては上で述べた「軌道のRSB」が生じていることを数値計算を用いて捉える事ができた。トラップモデルは格子上にランダムなエネルギー障壁が与えられている粒子模型であり、エルゴード性の破れやエイジングのようなガラス的ダイナミクスの研究の際に興味を持たれてきた。特に一次元トラップモデルはこれまでに平衡状態において局在現象を示すことや異常拡散が見られることなどが知られていた。本研究ではこの一次元モデルを軌道の観点から解析することで、拡散の異常性を軌道アンサンブルにおける相転移として記述する事ができた。この結果は現在論文準備中である。 また、一般に共通の速度場に駆動される二粒子は直接的な相互作用が存在しない場合にも有効的には引力が働いてクラスター化していくこと(軌道の合流)が知られている。しかしながら、速度場が記憶のないガウシアンで与えられる場合などの単純な状況では、この現象は二粒子に個別に加わる熱ノイズに対して不安定である。一方で、昨年度得られた軌道のRSBは、この軌道の合流のうち個別な熱ノイズに対して安定なものである。申請者はこれらの違いを理解するための第一歩として、速度場が記憶のないガウシアンで与えられる状況にわずかに記憶を加えることによって軌道の合流が安定化されるかどうかを調べた。その結果、記憶によって軌道のRSBが生じるまでにはならないが、相対拡散では一粒子拡散から期待されるよりも個別のノイズの効果が強く抑制されることを示した。
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