本研究課題では,曲面に現れる特異点やトポロジーに関する研究を行い,微分幾何学的な視点から,その性質を明らかにすることを目的としている.この研究目的に従って,本年度は次のような成果を得た. (1)交叉帽子は,3次元ユークリッド空間内の滑らかな曲面において,最も頻繁に現れる特異点として重要である.昨年度に報告した筆者を含む6人の先行研究では,ホイットニー計量と呼ばれる,交叉帽子の誘導計量を含む半正定値計量のクラスを定義し,交叉帽子特異点の内的定式化を行った.本研究では,その発展として,ホイットニー計量を備えた任意の2次元多様体が,形式的べき級数としては,3次元ユークリッド空間内に局所等長的に実現できることを示した.さらに,その応用として,実解析的なホイットニー計量の等長類を特徴づける,加算無限個の内的不変量の族も与えた.(都城高専の本田淳史氏,東工大の梅原雅顕氏,山田光太郎氏との共同研究) (2)3次元ユークリッド空間において,番号づけられた直線の列であって,隣接するどの2直線も同一平面上に横たわるものを離散可展面という.長方形の帯状の「紙」を半整数回捻り,両端を繋げて出来るメビウスの帯は,数学的には「中心線が測地線である可展的なメビウスの帯」と考えられる.本研究では,その離散的定式化を行い,勝手に与えられた「中心線の結び目の型」と「捻り数」をもつような,離散的かつ測地的なメビウスの帯の存在を示した.さらに,中心線が閉曲率線であるような可展的なメビウスの帯の離散的定式化も行い,勝手な「中心線の結び目の型」と「捻り数」をもつ,離散的かつ主曲率的なメビウスの帯の存在も示した.実解析的に滑らかな場合については,黒野氏と梅原氏による先行研究があるが,これらはその離散版である.この成果に基づき,現在,論文の準備中である.(ウィーン工科大のクリスティアン・ミュラー氏との共同研究)
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