1. シギアブの食性の転換に伴う幼虫の口器形態の進化を解明 シギアブ科が植食性を獲得する際にどのような形態的変化が伴ったかを明らかにするため、コケ食者の生活史と幼虫の形態を調べた。特に幼虫の口器形態に着目し、摂食行動の観察に基づいてその機能形態を推測した。Spania属およびLitoleptis属の幼虫はタイ類の組織内部に潜葉し、Ptiolina属はセン類の茎に潜孔することが分かった。また、タイ類潜葉者は、大顎の下部の突起で植物組織を噛み砕いた後、その破片を組織中の液体とともに大顎背面の穴から吸い込むことで摂食していた。分子系統解析の結果から形態進化を再構築したところ、コケ外部食の進化に伴い、捕食に適した構造とされるmandibular brushの喪失と大顎の口側の溝の退縮が生じた後、潜葉性の進化に伴い、陸上生活での匍匐運動に適した体表構造であるcreeping weltsを喪失するとともに大顎背面の穴を獲得したことなどを示した。シギアブの潜葉性の獲得において、溝を用いた吸汁という祖先的な捕食者の摂食方法が特異な口器の進化に強い影響を与えたと考えられる。 2.国内における新種コバネガを発見、記載 東北地方における綿密な調査に基づき、東日本で新たに発見された6種のコバネガ科の新種とその分布域を明らかにした。まず、南アルプスの亜高山帯の数地点において2種のコバネガを発見した。さらに、東北地方での野外調査に基づき、Issikiomartyria属の4種の新種を発見した。東北地方全域に亘るコバネガ類の分布調査を行ったところ、Issikiomartyria属の9種の生息域は東北及び北陸地方の日本海側の山地に限定されていたことから、Issikiomartyria属のコバネガ類は東北地方で最も著しい分化を遂げた日本海要素の一つであることが示唆された。本成果はまもなく投稿予定である。
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