研究課題/領域番号 |
14J00164
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 裕一 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 環境史 / アルプス山岳地帯 / 森林・水資源の利用と保全 / 自然環境をめぐる紛争と地域秩序 / 災害史 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、中世から近世にかけてのアルプス山脈・レヒ川流域を対象として、環境史研究という新しい視座から、地域社会と自然環境との相互関係のありかたを双方向的および構造的に解明することである。そのため、研究遂行者(渡邉)は、平成26年9月に学術雑誌『史観』(早稲田大学史学会刊)に論文「帝国都市アウクスブルクの森林管理・行政」(査読あり)を、さらに平成26年12月に学術雑誌『比較都市史研究』(比較都市史研究会刊)に論文「木材、市場、規範設定―中近世アウクスブルクの事例から」(査読あり)をそれぞれ発表し、自然環境と地域社会の相互関係の一端を都市アウクスブルクの法制度の展開を踏まえて解明した。 さらに平成27年3月31日に刊行された踊共二編『アルプス文化史―越境・交流・生成』(昭和堂)に、「〔ケース・スタディ〕アルプス環境史の試み―川が結ぶ都市と森林」と題する短文を寄稿し、レヒ川が結んだ南ドイツの大都市アウクスブルクとアルプス山岳地帯の森林との活発な相互関係を描き出し、本研究課題の構想と今後の展望を簡潔にまとめた。その他、ドイツにおける環境史研究の第一人者であるヨアヒム・ラートカウの主著(『自然と権力―環境の世界史』みすず書房、2012年刊)の新刊紹介を雑誌『史学雑誌』に掲載し、また環境史研究の可能性を論じた短文「アルプス環境史への道程―登りながら考えたこと」を雑誌『史観』に寄稿した。 また、本研究課題に関わる研究成果および構想については、国内の学会・研究会において口頭発表を行い(計5件)、多くの専門家から有意義なアドバイスを受けると同時に、今後の共同研究に関して具体的な方向性を見出すことができた。とくに、京都大学の服部良久教授、甲南大学の佐藤公美准教授が中心となり2014年に新たに設立された「アルプス史研究会」に創立メンバーとして参加できたのは、本研究課題の遂行にとっても大きな進展であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績の発信にくわえ、今年度は2度にわたりドイツ・オーストリアへの資料調査(平成26年5月および平成27年2月)を実施し、未刊行史料の収集・分析を行った。主な調査先は、南ドイツのアウクスブルクであり、その他、ミュンヘンやオーストリアのインスブルックでも関連資料の調査を行った。アウクスブルク市立文書館では、本研究課題の主要史料となる「森林書記の会計簿」(1555~1608年)のうち、これまで未調査であった10巻分について史料調査をおこない、会計簿に記入された様々なデータ(年間の収支、森林労働の種類、日雇い人の実態etc.)を収集した。また、「食糧管理局の会計簿」「書簡集」などの所蔵資料も確認し、次回の資料調査での作業目標を明確化することができた。収集した史料は、帰国後に整理し、申請書で記した三つの視角―森林労働の世界、森林・河川利用をめぐる紛争と解決、自然災害―から分析を進めている。以上、前述した実績の発信、史料調査、そして新たな研究会の設立・参加などを考慮し、本研究課題の計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度も、昨年度の史料調査の成果を踏まえ、再び夏(8月~9月予定)と冬(2月~3月予定)に渡独し、アウクスブルク市立文書館にて「会計簿」を始めとする未刊行史料の収集・分析を引き続き行う。また、ミュンヘンの州立文書館、オーストリアのインスブルック文書館でも関連資料の収集を行い、史料基盤の幅を広げる予定である。 研究会・学会での発表については、6月20日に中央大学で開催される第25回日本ハンザ史研究会にて「中近世ドイツ都市の森林政策―アウクスブルク、ニュルンベルク、ハンブルク」(仮)と題して、また7月31日に大阪市立大学で開催される関西比較中世都市史研究会にて、「中近世アウクスブルクの生存政策―中心資源・木材に注目して」(仮)と題して口頭報告を行う予定である。また12月には、イタリア人研究者を招聘して京都大学で開催されるアルプス史シンポジウムにて、サブ報告を担当する予定である。
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